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それから三人はお昼近くまでいてくれた。
時折騒ぎ過ぎては看護師さんにお叱りを受け、静かになっては騒いで怒られ、を繰り返し、たまには一緒にお昼食べよって誘ってくれたけど、ボスザルから片時も離れたくなかった俺は申し訳ないと思いつつもそれを断った。
「ちゃんと飯食えよー」
「また明日来るからねん」
「拳聖起きたら連絡ちょーだーい」
口々にそう言うと、三人はまた騒がしく部屋を出て行った。
一気に静まり返る室内に、俺はほうっと小さく息を吐く。
それから定位置となっているベッドの傍らの椅子に腰かけると、何かを確かめるようにボスザルの手を緩く握った。
「うるさかったですか?」
なんて問いかけながら、その手を口元に押し当てる。
寝顔を見詰めながら、俺は躊躇しつつも、その口元に指先を伸ばした。
最初にキスしたのはいつだったか。
二回目は?
三回目は?
四回目?
十回目?
俺は一体何度この人と口付けを交わしたのだろう。
その一つ一つを、しっかり記憶出来ていない自分に霧消に腹が立った。
いつでも出来ると思っていたから。
いつでもされると思っていたから。
それが当たり前だと思っていた。
ふと立ち上がり、身を屈める。
途切れてしまうのがいやだった。
本当なら、まだまだその回数は増えていた筈で、だからこうして途切れてしまうのが霧消にイヤだと感じた。
頭を下げて、顔を近づける。
それから目を閉じて、そうっと、その口元に自分の口を重ね合わせた。
「…………」
いかん、これはいかん。
いかんいかんいかんいかんいかんいかん!!!
お、おおおお起きてませんよね大丈夫ですよねウソ寝だったら今すぐ窓から身投げしますけど大丈夫ですよね!!?
大胆な自分の行動に挙動不審となった俺はガタンと椅子をひっくり返し、その音にもびっくりした俺の心臓が更にテンパってあり得ないくらいの速さでドクドクと血を循環させ始める。
それから頭を抱えてその場にうずくまった。
同時にドアが開いてまたひとつ心臓が跳ね上がる。
看護師さんだなと思った俺は、不審に思われないように落とした物を拾ってただけですという白々しい演技を披露して見せた。
立ち上がり、挨拶をしようとした俺の口が半開きの状態で止まる。
「何してんだ祐介」
戸口に立つその姿を見て、俺の視界が少しだけ膜を張ったようにぼんやりと歪みを見せた。
「何してんだって…、」
「顔真っ赤だけど、体調悪いんじゃないのか」
「いや…」
「これ、多分その男は食べられないだろうけど、一応」
そう、真弓はずいっと俺に果物の盛り合わせを手渡した。
「真弓、お前…、何で?」
「来ちゃマズかったか」
「いや別にそういう事じゃなくて…」
ずっと、あの日から見ていなかった親友だった男の登場に、俺は訳がわからなくて、ただ真弓を見るしか出来なかった。
そんな俺を見て、何も変わっていない、本当にチームなんて物と関わりがあるのかと疑ってしまう程普通のいつもの真弓が、少しだけ困ったように笑う。
潤んだ目が、更に濡れていくのがわかった。
まだ目的は何なのかもわかっていないのに。
ただ、また会えたというだけで俺は嬉しくて。
椅子を持ってそこに座る姿を見詰めながら、俺はじっと言葉を待った。
「祐介」
「…ん」
「あの時お前は、今の俺は信じないと言ったよな」
「あの時…」
急いで記憶を辿った。
多分それは、ボスザルが俺を殴ったあの日。
迎えに来た真弓に言った言葉だ。
思い出し、俺は小さく頷いた。
「そう言われた時、なんてやつだ、って思ったよ」
「なにが…?」
「そこまで俺を友達として認めてくれてたって事だろ?」
「認める、っていうか…」
ただ、信じたかっただけだ。
「何も話さなかった俺を、いや、だからこそなのかもしれないけど」
いまいち言っている意味がわからない。
何を言いたのだろうか。
そう思って、俺は手にしたままだったフルーツを簡易テーブルの上に置き、こけっぱだった椅子を直してそこに腰を下ろした。
「なに、はっきり言えよ」
「いや、うん」
「なんだよ」
「本当に都合がいいと思う。詳しい理由を言えないのはそのままだけど、その、まだ俺たちは友達のままだと思っていいのか」
真っ直ぐに目を向けられて、少し戸惑った。
すぐに言葉を返せなくて、顔を伏せる。
正直、裏切られたという気持ちはまだ残っている。
オヤジ犬の仲間になったり、ボスザルの読みが正しかったら、俺を危ない目にまであわせようとしていた。
それを考えたら、今でも腹が立つし悲しくなる。
だけど、そこにきちんとコイツなりの理由や言い訳があるなら、許せない事もないんだ。
小さく息を吐いて、俺は再び真弓に目を向けた。
「詳しくはいいから、話せる範囲で聞きたい。ムリなら別にいい。それでも俺は、お前がそう望むならっていうか、俺はお前と友達でいたい」
少しの間押し黙った後、真弓が突然立ち上がる。
そして俺の傍までくるとボスザルに向かって、
「寝てる間に申し訳ないが、今のこの気持ちを体現したい」
訳の分からない事を言って、いきなり俺を強く抱きしめた。
ぐえ、っと声が出そうになる。
「まっ、まゆ…!」
「ありがとう祐介。ありがとう」
「わ、わかっ、わかった、から…っ」
お前自分の体格がどんなか忘れてるだろう!!
そんなんで本気だして人を抱きしめるんじゃないバカ野郎!!
ひいいぃ…っ、い、息が…っ!!
圧迫された事により首から上が真っ赤に染まっていくのがわかった。
死ぬ。
真弓の背中を何度も何度も叩いて、意識が遠のきかけた所でやっと解放された。
「お、おま、お前なぁ…っ、」
「すまん、つい嬉しくて」
クラクラとする頭を何度か小さく振り、俺はそのままボスザルの傍らに突っ伏した。
「大丈夫か」
そう言いながら、真弓は俺の背中をゆっくりさすってくれた。
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