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おおおおお俺は一体何を口走っとるんだ!!
あれじゃあまるでえっちな事をして欲しいみたいじゃないかくそう…っ。
そんな事はない、絶対にない。
あってたまるか。
「祐介、顔が赤いが熱でも、」
「何でもない!!」
「…そうか」
教室に戻ってからも俺の真っ赤に染まった顔はおさまってくれなかった。
昼休みになってもそのままなもんだから、真弓も段々本気で心配し始める。
購買で買ってきたパンをハムスターのように口いっぱいに頬張りながら、俺はそれを一気にジュースで流し込んだ。
「…っ、はあ」
「大丈夫か…」
「大丈夫じゃないけど大丈夫」
そう言ったら、真弓の眉間に皺が寄ったので慌てて大丈夫だと言い直した。
取り敢えず顔でも洗って来ようとトイレに移動する。
それにも着いて来ようとする真弓を呆れながら押し返し、俺は汚れきった廊下を一人とぼとぼと歩いた。
トイレで顔を洗ったけど、いまいちスッキリしない。
そのままぶらぶら散歩でもしようと足を進めていれば、背後から誰かに抱きつかれて俺の口から一瞬魂が姿を現した。
「祐介みっけー」
「…ハルさん」
涙目になりながらビックリし過ぎて暴れていた心臓をなんとか宥め下ろす。
「お前最近見ないじゃん。どした、拳聖となんかあった?」
「え、いや、別に…」
「てかさー、やっぱあれだよな。祐介って」
「え…」
まあ歩こうかと肩を抱かれて、俺達は行くあてもなく廊下をダラダラと歩き出した。
「俺の記憶の中にある中2の拳聖ってさー、もっと本当にスゲーとげとげしてたんだよなー」
「はぁ…」
「それがさ、やっぱお前が近くにいるからだろ?丸くなってる」
「………」
「お前には、そういう何かがあるんだよきっと」
正直言って、そのハルさんの言葉には凄く救われる気持ちになった。
もし本当に俺が近くにいる事で、ボスザルに変化があるのだとすれば、だけど。
「仮に記憶が戻らなくても、多分お前らはまた始まるだろ」
「………」
「いつになるとかはわからないけど、俺はそんな気がするぞ」
だから元気だせよ?って背中を軽く叩かれて、色々といっぱいいっぱいになっていた俺は不覚にもボロボロと泣き出してしまった。
記憶が戻らなくても、また俺達は始まるんだろうか。
ボスザルはまた、俺を好きになってくれるんだろうか。
そんなの誰にもわからない事だけど、そうやって誰かが言葉に残してくれるというのは、物凄く嬉しい事だと思ったし、物凄く勇気を与えてくれると思った。
「よしよし」
頭を撫でられて、止まるどころか涙は更に勢いを増していく。
そんな俺を見て苦笑しながらも、ハルさんはずっと頭をぽんぽんとしてくれていた。
放課後、いつものように真弓にマンションまで送ってもらい、俺はそそくさとエレベーターの前まで足を速めた。
あの日最大級の恐怖を感じた俺は、たとえ外が明るくても一人ではいられなくなってしまっている。
あんな思いをするのはもう二度とごめんだ、と、降りてくるエレベーターを静かに待った。
「………」
ポケットで震えだした携帯にイヤでも汗が滲む。
もう確認しなくても分かるようになってしまった。
だって俺友達少ないですから。
携帯なんて滅多にならないですから。
かけてくるとすればもうそれはただ一人しかいないわけで。
あんな事を口走ってしまった後で、普通に何事もなかったかのように隣にいる事なんて俺には出来ない。
出来ないと思ったから、俺はその電話を初めて気付かなかったという事で処理をしようと思った。
エレベーターのドアが開き、足を踏み出す。
携帯の振動は止まらない。
そのうち留守電になるだろうとシカトを決め込むが、止まったと思ってもまたすぐに振動を始める。
エレベーターに乗り込み、ボタンを押そうとくるりと反転した所で俺の動きが停止した。
「………」
そのままドアが静かに閉まっていく。
と思ったのだが。
ピタリと閉じられる寸前でドアの隙間から勢いよく手が滑り込んで、そのままドアは再びオープンを始めた。
「シカトしてんじゃねぇよ」
「………」
何でいるんですか。
イラつくようなその形相を見詰めたまま俺の動きは当然として皆無なわけで。
俺の隣に乗り込んでくるその姿に固唾を飲みながら、何階だ、と聞かれて俺の腕が漸く動きを取り戻した。
心臓がドキドキと煩くて、聞こえるんじゃないかと息を詰める。
会うだけでも今はちょっと遠慮したいのに、こんな狭い個室に二人きりとかどう考えても俺に死ねと言ってるようにしか思えない。
その上暑いもんだから汗の量もハンパない。
ただでさえ暑くてじっとり汗ばんだ俺の体は、水でも被ったのかという程に全身びっしょりになっていた。
一体何用なのか。
エレベーターが開き、カクカクになった動きで俺はボスザルを部屋の前まで案内した。
ちょっと前までは、二人でこうしてここに帰ってくるのは当たり前だったのに。
なんて事を思いながら、蒸し蒸しとする室内に眉を寄せながら取り敢えず俺は最大の風量で冷房を入れた。
ああ、でも丁度良かった。
置きっ放しだった荷物をこれで返す事が出来る。
無言のままボスザルがソファに座るのを見届けると、俺は荷物をとりに隣室へと入った。
そして開けっ放しだったチャックをしめてから、荷物を持ち主へと渡す。
「これ、俺のか」
「…はい」
「何でここに、ってのはもう聞かねぇ事にする」
受け取った荷物を足元に無造作に置きながら、ボスザルはポケットから煙草を取り出すとゆっくりと火をつけた。
何ていうか、物凄く居心地が悪い。
そして、胸が痛い。
ここには、ボスザルとの思い出が沢山ありすぎる。
沢山ありすぎて、そのどれもを覚えていない本人とこの場所にいるのは辛すぎる。
隣はイヤだったから、俺は床の上に正座をしながら膝の上できゅっと手を握り締めた。
「そんなとこにいねぇでこっち来い」
「…いいです」
「来いっつってんだ」
低い声で唸られて、渋々隣へ移動する。
そしてソファに腰を下ろした瞬間、目の前に天井が広がった。
「…あ、の、え、ちょ、」
押し倒されたと気付いたのはその端麗な顔が目前まで迫ってから。
あまりの予想外な展開に、俺の頭は一気にパニックに陥った。
「な、なななにして…っ、」
「お前も、して欲しいんじゃねぇのか」
「な、なに…」
「お前の言い方を借りると、えっちな事、か」
「………」
「傍にいるとか大事にするとかそういうのとは別で、お前が望むんだったらこういう事は特に問題ない」
節操がないと、デコピンの言葉が脳内を巡る。
求められたら、きっとこの人は誰とでもいつでもこんな事を平気でするんだろうと。
思ったら、その括りの中に自分が入っているという事がどうしようもなく辛くて苦しくて、そして、最高に腹が立った。
「俺は、別に望んでません」
「そうか?」
「望んでたとしても、それは今の貴方にではないです」
「同じだろ」
「全然違います!俺の知ってる先輩は、こんな下半身が緩くて頭の悪そうな事はしませんっ!」
「テメー…」
言ってから後悔した。
したけどでも、スッキリした自分がいる。
今目の前にいるのは、俺の知ってる人じゃない。
全然知らない人だ。
俺が求めてるのはこの人じゃない。
違う。
上にある身体をどかそうと、遠慮がちにその肩に両手を押し当てる。
だけどボスザルは一向に動く気配がなく、キツくなった目付きでじっと俺を見下ろしていた。
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