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金色の瞳のチェシャ猫のお話1
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『お前死ぬのか?』
彼との出会いは野垂れ死ぬ直前だった。
『…?』
頰がこけ、目が窪み、栄養失調だろう。肌ツヤも悪く、血色も悪い。
白装束の行者の格好をしたその男は何とか顔を上げ薄っすら目を開けるのが精一杯といった様子だった。錫杖をもった爪は黒ずみ、ボロボロだった。
『…ここで死ぬのか?』
ツンツンと丸出しの尻をつつく。うつ伏せに倒れているため、下半身の大事な所は辛うじて隠れていた。そして、尻の近くには、茶褐色の腐臭を放つ液状の便が、体を素通りしたようにそのまま土の上に残っていた。恐らく、男は何かの修行僧だろう。苦行の最中に病にかかり、それでも苦行はやめられず、ここで息絶えようとしているに違いなかった。
『…』
渇いた薄い唇を開けたが、キュッと口を閉じた。そして、指に力を入れて錫杖をつかみ、身体を奮い立たせる。もう、息をするのもやっとといった感じなのに、上体を起こした。そして、ゆっくりと布を手繰り尻を隠した。やっとの事で、座ることに成功する。
『もう、楽になれば?』
そう言って、彼に拳銃を渡した。
『弾のお金は、来世でいいからさ』
しかし、男はチラリとも見ずに、虚ろな瞳に力を込めて、渾身の力を全身に込めて、錫杖を頼りに立ち上がる。
『…まだ、生きるの?』
カシャンカシャンと錫杖の心地よい音が鳴る。
やっとのことで立ち上がり、1歩、2歩…ガシャンと膝をつく。それだけで、息が切れていた。いらん世話だったようで、手早く銃をしまった。
『もう時間がないよ』
それでも、男は諦めようとしない。
歩くことや、生きること。そして、前へ進むこと。
男を見ているとなんだか、ヤキモキした。
『んー…』
歯を食いしばりながら、何度も転び、起き上がっては前へ進もうとする。
手を差し伸べることは容易いのに、じっと男を見る事しか許さないような気がした。
『馬鹿だね』
フラフラの彼を見届け、姿を消した。
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