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金色の瞳のチェシャ猫のお話6
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季節は彼岸。寺の敷地内の竹林にも、彼岸花がチラホラ咲いている。ただ、ここの彼岸花は通常の彼岸花と違い、真っ白だ。
「今年も、これが見れてよかった…」
チェシャは、天花の箪笥から勝手にパーカーを出して着ると外へ出た。細い素足が出ているように見えるが、短パンをはいているため、そう見えるだけだ。天花の身体にあわせたパーカーなので、チェシャが着るとかなりぶかぶかだ。
天花も買い物をしたり、街へ飲みに誘われる事もあるから、偶にこうした洋服をきる事もあるようだが、滅多に着ないため、箪笥の中の匂いがついている。けれど、チェシャはこの匂いが嫌いじゃない。防虫剤の匂いに交じって、天花の匂いに包まれながら、寺社の中を散歩していた。
天花は、寺の御勤めやら、来賓の相手やら法事のなんちゃらで、忙しくしている。忙しなく、てんてこ舞いな天花を眺めるのにも飽きて、チェシャは、竹林の散歩をしている。竹林は、変わらず美しい若草色の葉を茂らせている。風が吹くとしなやかに葉が揺れて、ヒラヒラと茶けた葉が地面に落ちる。それと共存するように、白い彼岸花は派生していて、まるで竹林に雪を散らしたようだ。時折、少し黄色みの強い彼岸花もあるが、それもまた美しい。この寺の竹林と白い彼岸花を見るために、この時期来客は多い。
最近は、SNSの普及で拡散した画像によって、情報が多く得られるようになった。そのため、この寺も昔は駅からも遠い山奥なのに、来客が増えるようになり、僧侶に手伝いを頼むようになった。特にお彼岸の時期は、檀家さんや法要など、様々なイベントがあり、やる事もいっぱいある。天花は特に住職なので、昼夜関係なく電話がかかってくるため、特に暇がない。こんな時期に、天花の元を訪れるという事は、ロクに構ってもらえないという事なのだが、それでもチェシャは、この彼岸花と竹林を見れただけでも価値があると思っている。
「あの…」
チェシャは、竹林を眺めていると、話しかけられた。
「?」
視線を向けると、そこにいたのは観光客だった。
「写真とってもらっても良いですか?」
こくりとチェシャは頷くと、携帯電話を渡される。ビリビリッと痺れる感覚があった。
…コイツら…
チェシャがそう思っていると2人は、策を超えて竹林の中へ入ろうとする。
「あっ…」
チェシャは声を出した。
「はい?」
「その中は入っちゃダ…」
チェシャが小さい声でそういうと2人はいう。
「大丈夫!大丈夫!」
大丈夫なわけねーだろと、チェシャは内心思った。
っていうか、何が大丈夫なんだか説明しろババア。
「でも、住職が…」
チェシャの制止を聞かず、ザクザクと竹林へと踏み入れる2人の女性に、チェシャは心がジリッと痛くなった。
「この辺で良いか!」
竹林の中腹まで踏み入った2人の女性は、その場でポーズをとっていた。
「おねがいします!」
そう言って、更ににこやかな笑顔を向ける。チリッと心が熱くなり、胸が痛くなる。
「…はぁっ」
ぎゅっと締め付けられるような胸の痛みに、チェシャは自らの胸を抑えた。ドキドキと心臓が鳴る。壊れてしまうような恐怖がして、呼吸が粗くなる。
…美雪…
「えっ…どうしたんですか?」
携帯を握ったまま、締め付けられる心臓と共にチェシャはうずくまった。女性2人は、心配そうに駆け寄ってくる。
「大丈夫?どっか痛いの?」
柵の中から、チェシャを気にかけている。
「ちょっと、お寺の人に声かけてくるね!」
1人がそう言って、もう1人はチェシャに話しかけた。
「携帯預かるね…大丈夫?」
携帯電話をチェシャの手からとると完全にうずくまってしまったチェシャの肩に触れた。その瞬間、チェシャにびりびりっと電流のようなものが走る。
「ううっ…」
更に強く背を丸める。
「救急車呼ぶ?」
女性に言われ、チェシャは首を強く左右に振る。
「…住職…」
ぎゅっと痛くなったチェシャは、それだけしか言えない。
「住職ねっ…」
「御待たせしましたっ!」
そう言って、女性が寺の僧侶を連れて戻ってくる。
花風だった。
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