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金色の瞳のチェシャ猫のお話9
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いつも部屋に戻る時間にも増して、遅くなってしまう。全ての法事を終えて、くたくただった。学生時代、スポーツをしていたから、体力には自信があるが、さすがに天花の疲労は蓄積されていた。
「…」
両手いっぱいに、食べ物を抱えた天花は、途中までしか戸締まりのしていない廊下を通り、自らで戸締まりをする。雨戸を閉めなくてよいと言ったのは、天花だ。自室の方に…いや、今はチェシャに近づいてはいけないと、花風に告げた。
「戻りました」
すっと襖が開くと部屋の真ん中にあった布団は、部屋の隅っこに丸められていた。
「…チェシャ」
天花が電気をつける。
「まだ良い方か…」
廊下から部屋へ入る障子は、びしびりに破られていて、電気をつける糸は根元近くから無くなっている。押し入れの襖は、引き裂いたような爪の跡や、壁に埋まっている真新しい張り替えの箪笥にも同様の痕があった。
まだ良い方。と、天花が言ったのは、畳が傷ついていないからだ。
「チェシャ」
天花が、布団の塊に近づいて行き、そっと触れる。
「…分かるな?」
山のようになっている布団に触れると、手がにゅっと伸びてくる。
「…美雪」
「食べるか?」
両手いっぱいの食べ物をみたチェシャは、一瞬沈黙をした。
「…うん」
布団から、出てくるとチェシャは電気の明るさに顔を覆った。
「眩しいか…」
天花の言葉にこくりと頷いて、天花は電気をオレンジ色の豆電球にした。ぼろぼろになっている雪見窓から、今日の満月の光りが入る。
ああ…そう言えば、窓ガラスも無事だ。天花はチェシャを布団から出した。布団から出たチェシャを胡座をかいた足の間に座らせ、部屋の角と壁に間に閉じ込めるようにする。
「握り飯を作ってきたんだ」
更には、大きなノリの巻いてあるオニギリが三つ乗っていた。
「こんなに大きいの食べれない」
チェシャ猫はむっと頬を膨らませる。
「貰い物の佃煮が美味しかったから、食べられるよ」
そう言って、天花にラップをむいてもらい、チェシャはオニギリを一口食べた。
「美雪の手は大きいから、いつも小さくしてって言ってるだろ!」
チェシャは、文句を良いながらふんぞり返るように座って握り飯を食べた。
「ほら、まだご飯だよ」
頬に米を詰めながら、握り飯を見せる。少しだけ塩気のついたオニギリは、空腹のチェシャには、どんなごちそうよりも美味しく感じる。
やっぱり、ブツブツいいながら食べる天花が握った巨大なオニギリが好きだ。これを食べると「ああ、帰ってきたな」と安心する。
「どれ?」
天花は、細いチェシャの手首を掴むと、三角のオニギリを食べた。
「ああっ!食べていいなんて言ってないっ!」
チェシャは、頬を膨らませた。天花は穏やかに微笑みながら、オニギリを食べていた。
「ほら、美味しい」
「なんで、僕のオニギリ勝手に食べるの!」
天花もラップをとってオニギリを食べた。
「あ!僕のオニギリ!」
「お前だけのオニギリなんて、言ってないだろ」
天花も、夕ご飯を食べていないのだ。何とか、早く終わらせなければと急いで終わらせてきたのだ。だから、腹が減っていた。天花が、オニギリを食べると、チェシャはいう。
「ゆきちゃん、お茶は?」
天花は「あるぞ」といって、ペットボトルを渡した。
「温かいのが良いのに」
チェシャは、文句を良いながらキャップを開けて中身を飲んだ。
「また、そう言う事言う。温かいの持ってくると、冷たいのが良いって言う癖に」
チェシャは、ツーンとして、大きなオニギリをぺろっと食べきってしまう。
「言わないもん」
そうして、二つ目のオニギリに手を伸ばす。
「大体、彼岸とお盆の時期に帰ってきたら、忙しいのくらい分かってるだろうが」
天花の小言が入る。
「何言ってんの!年中忙しいくせに」
チェシャは、ご飯をまた頬張っている。
「分かってるなら、連絡ぐらいよこせ」
天花は、自らの握り飯を食べ終える。
「連絡したって『分かった』とか『遅くなる』とか『了解』とか、そんなんばっかじゃん!」
単語でしか返信しないルールでもあるのかと思ってしまうほど、淡白で素っ気ない。
「しかも、返信してくれるのは夜と朝だけだし…」
日中の空いている時間に返信してくれる事なんて、天変地異があったときかと思うほど稀だ。
「それは…すまん」
素直に謝る天花をチェシャは見る。
「ホントに反省してんの?」
じっと睨め付けるように天花を見つめたチェシャの口の端についていた米粒を天花は指で摘んで自らの口に入れる。
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