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金色の瞳のチェシャ猫のお話14
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「ミケ! お前何やってんだ!そこまでしろなんて言ってねぇだろーがっ!」
床が抜けそうなほどドスドスと音を立てて、2人の間に割って入るのは、もちろんチェシャだ。
「うるせーなぁー…好きにやらせろよ」
チェシャは分かりやすく天花と八朔の2人を両手で精一杯引き裂く。
「美雪っ!てめぇ、ミケに絆されてんじゃねぇぞ!殺すぞ!」
チェシャは、目くじらを立てて怒っている。
そんな事をいわれるのも初めてだし、こんなに怒っている彼を見るのも初めてだった。
「いやぁー」
そんなつもりは無かったのだが…殺し屋に殺すぞといわれると洒落にならないと思った。
「…へぇ、美雪っていうんだ」
ボソッとミケが微笑んだ。
「なっ!?」
動揺して天花の本名を他言してしまった事に、チェシャは顔を真っ赤にさせた。
「まぁ、調べりゃー分かるけど…良い事聞いた」
完全に悪巧みをする悪魔の表情だった。美しい顔立ちなのに、もったいない。
「ミケ!てめぇ何企んでんだっ!」
チェシャは、自分の恥部を見られたかのように真っ赤な顔をしていた。
「なんも企んでねぇよ」
「嘘付けっ!」
涼しい表情を浮かべる八朔…基、ミケとチェシャのやり取りを見ていて、天花は呆気にとられている。こんなに、チェシャが他人に振り回される事が今まであっただろうか。
いや、どちらかといえば天花は振り回される側なので、こんなにチェシャを振り回せるミケがどこか羨ましく、疎外感を感じた。
「つーか、ゆきちゃんさぁ…」
ミケは、天花をそう呼んだ。
「てめぇ!馴れ馴れしいんだよっ!ユキちゃんって呼ぶな!」
まるで、自分だけの大事な宝物を奪われたかのようにチェシャは怒っていた。
「うるぇなぁ…だったら、お前も僧侶その2やれよ」
昨夜の事だ。
「…どうした?」
チェシャに押し倒されて、唇をべろべろと好き勝手舐められていた天花は、一瞬で表情と空気が変わったチェシャにゾクリとした。
久しぶりにチェシャのそんな表情を見た。
瞬きの数が減り、何かを見つけたかのようにじっとどこかを見つめ、動きを止めた。野生の動物が、危険を察知したかのような、そんな表情だった。
「…だれ?」
まるで、威嚇して唸るようにチェシャはそう言った。
「…」
そこには一体何があって、チェシャには何が見えているのだろうと、恐怖心を煽られる。マウントをとられていた天花の上からゆらりと音も無く退いて、まるで空気や雲がゆっくりと揺らめくように気配を消したチェシャが動く。
ああ…彼は、本当に殺し屋なのだ。
と、天花は思った。どこか、寂しい気持ちになった。
「ねぇ、ちょっと鈍ったんじゃないの?」
気配も音も無く襖が開くと真っ暗な押し入れに二つ宝石が光っていた。それは、宙に浮いていた。
「…」
天花は何度も、しばだたせて目を凝らし、それが人間の目だという事に気づいた。
「てめぇ…ミケ…」
ギリギリと奥歯を噛んだチェシャは、指をミケに向けて叫んだ。
「何しに来たっ!」
また、チェシャの空気が変わった。
「はぁ?何しに来たじゃねぇよ!このスットコドッコイ!」
天花は、起き上がり押し倒された布団の上に座った。押し入れから出てきた男は、酷く美形で瞳の色が宝石のように美しかった。
「いなくなりやがって!このスットコドッコイ!」
「まだ、三日しかたってねぇだろっ!」
「自覚あんじゃねぇか!ふざけんなっ!」
言い合っている2人に完全に置き去りにされる天花。
空気から察するにチェシャの仲間という事だろうと思った。チェシャの扱いに酷くなれている様子だった。
「すぐに迎えに来やがって!なんなんだよっ!ストーカーかよ!」
「好きでお前のこと迎えにきてねぇんだよっ!」
すると、チェシャがぐっと押し黙る。
「チェシャ戻れ」
ミケの声の温度が変わった。
「嫌だ!」
我が侭な子供のようなことをいうチェシャに、ミケは青筋を立てる。
「ふざけんなっ!」
子供のようなことを言い合う2人は、突如同時に天花を見た。
「!?」
天花は、驚いてビクッと肩を振るわせた。
「おいっ!てめぇが、チェシャを引き止めてんのかっ!」
と、ミケがいい。
「えっ…?え、あっ…」
なんと言ったらいいのか分からない天花が、困惑していた。
「コイツは、関係ねぇっ!」
チェシャが、ミケに言い放つ。
「じゃあ、戻れ」
「嫌だ!」
駄々をこねるチェシャをミケは、目を眇めて見つめる。
「…いずれ、ボスに全てが分かる」
その声は低く、時々ピリつくような重ささえあった。
「それに…お前を引き止めるヤツは、殺していいっていう指示ももらってんだ」
ミケの言葉にチェシャの立場は危うく待ったらしい。
「お前が、黙ってりゃーいい話だろ」
ミケが、その組織の長への報告をしなければ、チェシャの所在はバレないかもしれない。ただ、それだとミケの立場も危ぶむことになる。ミケにはミケの立場が、チェシャにはチェシャの事情がある。それがお互いの要求としてぶつかり合っている。
「お生憎様…オレは、お前を連れて帰らないと帰られねぇんだ。…それに、前ほどてめぇに付き合えるほど、暇じゃなくなったんでね」
「へぇ」
冷たくチェシャは返事をして目を細めた。
どんっ
と、チェシャはミケの肩を触る。
「なにすんだっ!」
ミケは咄嗟に反応したが、続いて何かに気づいた。
「…そう…へぇ…なるほどねぇ…」
チェシャは、金色の目を眇める。
ミケの肩に触れただけだが、チェシャは何かを理解したらしい。チェシャは不思議な力を持っていて、それを自分の力で発揮する。時折、無作為に使ってしまうこともあるものの、自分である程度制御できる場合もあるようだ。
「おいっ、やめろ!」
ミケの表情からするとチェシャは何か都合の悪いものを知ったような感じだろうか。ミケはチェシャのことを天花よりもよく知っている。
「へぇ…男に肩入れしてんだ…」
チェシャは、まっすぐミケを見た。そして、声を鋭くミケを追いつめる。
「てめぇ…それ以上、口にしたらぶち殺すぞ」
キバを立てて威嚇をするかのように、ミケがいうと、チェシャは涼しい表情をした。
「僕は、しばらく戻るつもりは無いよ…前回、散々ややこしいヤツらに力使わされたし」
「また別の依頼が入ってんだよ…さっさと戻れ。さもないと、ボスにチクるからな」
「別に、ボスにチクればいいよ…そのかわり、ソイツどうなっても知らないけどね」
2人の空気は悪化した。
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