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金色の瞳のチェシャ猫のお話25
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「あーあ…俺、しらねぇよ」
もう一つのその声が、ミケだという事は分かった。
「ウチの秘仏に手出して、ただで済むと思う?」
キバを剥き出しにして背中の毛を逆立てる猫のような声だった。
「おいっ…ちょっと、待て。彼女は、何もしていない」
天花は自らが人質にとられてしまっている状況よりも彼女の分の悪さを案じていた。
「何もしてなくないじゃん。盗まれそうになってるくせに」
チェシャは唸るようにそう言った。確かに、天花をこの寺の秘仏と考えるのであればの話だ。
「うるさいっ!アンタ達仲間をどこへやったのよっ!」
彼女は、天花の耳元で金切り声を上げた。
「どこって…警察が来るまで、寝てもらってるよ」
ミケが暢気に答えた。
「開放しなさい!」
キンキンと高い声で興奮している。余程、ミケとチェシャが怖いらしい。
「…別にいいけど、開放した瞬間に殺すよ」
殺生はダメだと言ったのに…
彼女は、恐怖を煽られたらしく、ミケの言葉に敏感に反応した。
「アンタ達何者なのよっ!一瞬にして、仲間を殺して、ただで済むと思ってんの!」
ヒステリックに叫ぶ女の声は、天花の耳元でキンキンと鳴り響いていた。
「…あのさ。さっきっから聞いてると、アンタ人質とった事無いでしょ?」
ミケには余裕があった。
「下手糞すぎて、笑えないから、早くその人開放した方がいいよ」
ミケは徐々に語彙に恐怖を織り交ぜた。というよりも、焦れていると言った方が良いかもしれない。彼女は、それを敏感に察知していた。
「な、仲間を開放するのが先よ」
彼女は2人の声で恐怖を煽られている。
「皆さん落ち着いてください」
天花は3人にそう言った。
「元はと言えば、簡単に捕まるから、こんな事になってんだろーが!」
チェシャは更に口が悪くなる。
「そんな事言ったって…」
どうしようも無かったんだと主張したい。
プロ同士の争いに巻き込まれた素人…
というか、一般人としては、すごく自然な流れのような気がしてならない。
「ねぇ…ソイツ殺しちゃダメ?」
まるで、血に飢えた獣のような発言だった。
「ダメだと言っただろう」
チェシャの発言を天花は牽制した。
「…人の大事なもんに、手出して良いって法律ないでしょ?」
大事なものと思ってもらえる事は、有り難いが…
「ダメなものはダメ。感情で動くな」
天花はチェシャに釘を刺す。
「ゆきちゃん、どっちの味方なの?」
ミケは、至極冷静だった。
「煩いっ!早く仲間を連れてきなさいよっ!」
天花を指していた銃口が動いた刹那。
「ゆきちゃんっ!」
天花が銃身を掴んだ。
「なにすんのよっ!」
バンっ!と床に発砲する。
「ちょっ!もう素人なんだからっ!」
ミケが急いで動く。
天花と女性が縺れて本堂へと倒れる。
パンパン!
と2発の発砲が立て続けにあった。
「馬鹿っ!」
チェシャもミケも素早く本堂の中へ入ると、女が天花の頭に銃を向けて立っていた。天花は顔を伏せて、倒れている。
「はぁっ…はぁっ」
ミケが女の掴んでいる銃を蹴り上げる。
「いい加減にしな」
ミケの怜悧な声。
「うっ!」
女は、銃を追って手を伸ばすが、思い切り顔を殴られる。
「ゆきちゃんっ!?」
チェシャが近寄る。
「ゆきちゃんっ!ゆきちゃんっ!」
焦ったチェシャが、天花の大きな身体を派手に揺らす。
「起きてよっ!」
天花を仰向けにすると、天花は胸元を探る。
「…死んだかと思った……」
そう言いながら出したのは、弾のめり込んだお経の本だった。
「もうっ!バカバカバカっ!」
チェシャは、呪縛の解けたように表情をクシャッと歪ませた。
「ありがとうございます」
天花は合掌した。
チェシャというよりも、加護を受けている仏様にだ。
「馬鹿!ありがとうじゃないよ!それどころじゃないでしょ!なにやってんの!馬鹿!」
天花をぎゅっと抱きしめる。
「死んだら、絶対許さないんだからっ!」
チェシャは、今にも泣きそうな表情をしていた。女は、ミケによって気絶させられていた。
「…まぁ、ひとまず、落着かな」
ミケは手早く女を縛った。
「チェシャ」
ホッとしているチェシャに天花は尋ねる。
「なに?」
「お前ら、誰も殺してないよな…?」
緊張した声で、天花は尋ねた。
「えっ…」
チェシャは驚いた表情をする。先ほど、女は『仲間を殺された』といっていたが、天花はこの寺での殺生を許していない。
「…信じてないの?」
チェシャはむっと頬を膨らませる。
「殺してるわけ無いじゃん」
「そうか…」
天花はホッとする。
「なんで、その女の言うこと信じるんだよ」
「すまん…」
天花は、チェシャの頭を撫でた。
「ありがとう…約束を守ってくれて」
殺し屋に、無殺生を強いた事は、彼等には負担だっただろうし歯がゆかっただろうと思う。
「…うん」
チェシャは素直に頷いた。
天花の無殺生を守ってくれた事に礼を言った。
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