アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2021年6月雨の日の巻 ❶
-
@@@@@
「うー」
あまりこの季節にこの場にはいないのだが、珍しくチェシャが部屋にいる。
「大丈夫か?」
今朝から敷きっぱなしにした布団はくしゃくしゃになっていて、あらぬ形をしている。当の本人はというと、畳の上にうつ伏せになって丸まっている。
「…大丈夫なわけない」
まるで、猫が唸る時のような低い声を出していた。
チェシャは、顔の向きを変えて部屋に入ってきた天花に少々イラついた視線を向ける。
そんな視線をさらりと涼しげにかわして部屋に入って静かに戸を閉める。
「ゆきちゃんなんでいんの?」
天花がこの時間仕事中なのを知っているチェシャは、普段こんな時間に部屋には絶対入ってこない天花に疑問を希望を抱く。
「一応、薬を持ってきた」
市販の痛み止めだが…
チェシャ曰く、天気が崩れやすい梅雨の季節は低気圧の影響で体調を酷く崩すのだという。
確かに、ここ数日気温のアップダウンもさることながら、雲も目まぐるしく形を変えて、雨が降ったり止んだりを繰り返していた。
それに加え、今日は特に雨が酷く滝のように降り注いでいた。朝は弱かった雨足が、今は台風を思わせるほどに強く建物の壁を叩いている。
「…」
天花は、そう言ってトレーに乗せてきた市販薬と飲み物を机の上においた。
部屋にある座って作業をする背の低い机は、木製で水分を含んでいて、いつもより膨張していた。ニスがハゲてきて表面の滑りが悪い。
天花は、腰を下ろして、チェシャが来るのを待つ。
「…」
チェシャは、天花が机の側に座ったので、顔をあげた。
髪がボサボサで視界を悪くしている。
「そこ置いといて」
天花はチェシャを待っていたが、チェシャはフイッと顔を背けて素っ気なく返事を返してしまった。
どうせ夜までかまってくれないんだったら、放っておいてくれよとチェシャは思う。
市販薬などではこの体調不良を直すのにも時間がかかるし、効果なんてたかが知れている。ささくれだった心とやさぐれた態度のチェシャは、畳に頬をつけて目を閉じる。
「全く…」
天花がため息を漏らした。
そして、立ち上がった。
そうそう…
そうやって、呆れてさっさと出て行けばいい。
天花に仕事があるのは百も承知だし、構ってもらえるとも思ってない。
チェシャの体調が悪いからと言って、側にいて欲しいと言っても天花は暇人じゃない。夜になれば、多少構ってもらえるが、日々の仕事に支障が出るようなことはできない。
「チェシャ」
天花がチェシャの側に腰を下ろす。
「…起きて薬を飲みなさい」
そして、チェシャの髪に触れる。
チェシャの『置いといて』という口調から、天花がこの部屋を去っても絶対に薬を飲まないことを天花は雰囲気で察した。
「いやだ」
はっきりと駄々を捏ねるチェシャに天花は優しくいう。
「なんで?」
「飲んだってよくならない」
てっきり薬が嫌いなのかと思っていた天花はいう。
「多少は良くなるだろ」
飲まないよりは、飲んだ方がよくなるに決まっている。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
66 / 92