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2022年霜月のとある日の巻❶
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そういえば…
疲れて床について、いつものように目を閉じる。
布団に背をつけると、ゆっくりと背中から意識が沈んでいくようなそんな気がした。
…あれ?
「…」
そういえば、どれくらい経ったっけ…
と思い出してみても、いつもいつの間にいなくなっているし証拠がない。
日々の勤行に忙殺されて、最近は弟子も増えたし、メディアも多く何かと連絡がくるし、天花としてはかなり忙しい日々を送っていた。
だから、猫のことを気に掛ける余裕も無くなっていた。
天花は真っ暗な中、ふと目を開けた。
気になったら、居ても立ってもいられなくなって、真っ暗で何も見えない室内を手探りで動く。
数分前まで、電気をつけて見ていた光景だというのに、暗いというだけで全く距離感が掴めない。いっそ電気をつけたほうが早いだろうが、ここまで来て引き返して電気のスイッチを探すとなるとまた二度手間になるから、そのまま手探りで前へ進む。
「痛っ」
角に指をぶつけた。
胸騒ぎではないが、なんだか少し焦っている自分がいた。
「いっ…」
続いて、腕を何かの端に打つける。
落ち着け… 落ち着くんだ…
久しく、こんなに心を乱したことはない。
忙しく、拉致のあかない時でも冷静でいられるというのに、気になった一瞬の確かめようのない不安にかき乱されるなんて…
「あぁっ!」
もうっ!
焦れた天花は、舌打ちをして荒々しく立ち上がる。
先ほど、自分が寝ていた布団は部屋の真ん中に敷いてあったのは知っている。
もそもそと手探りで部屋を進んでいた距離感は、間違っていない。素足に布団が当たってその真上に、天井からぶら下がっている電気がある。それに手をかけて、引っ張る。
カチャカチャッ
と音を立てて、部屋はパッと明るくなった。
一瞬目が眩んで、長めに瞬きをする。目をすがめて、部屋を見渡して、自分が指をぶつけたところと腕を打ったところを睨む。
電気をつけたまま、天花は探していたものが入っている場所を確認し、畳が軋むほどの大股で2歩でその場所にかがみ込む。普段、そんなことはしないのに加減を誤って、引き出しを開ける。
引き出しの中のものが一斉にガラガラと手前に滑ってくる。天花はその中から、充電器につながっているスマホを取り出した。
「…」
まるで、猫の首根っこを捕まえるようにスマホを取り出すと、慣れない手つきで操作をする。けれど、どうもうまく焦点が合わない。
急に電気をつけたから…ではない。天花は老眼が、少しずつ始まっているのだ。だから、専用の眼鏡がないと文字が見づらくなっているのだ。
焦れている天花は、スマホを遠ざけながら眉間に皺を寄せている。時折、まだ焦点が合わなくて首を動かしたりして距離感を合わせる。
「ダメだっ」
天花は再び舌打ちをして、引き出しを開ける。
普段はきちんと整頓されて、こんなに焦れることがない。だから、勢いや力に任せていろんなものが散らかっていく。それは、さながら天花の心も同じように…
引き出しの中から、眼鏡を取り出してそれをかけると、スマホの画面が真っ暗になっていた。
おい!勝手に暗くなるなよ!
天花は不器用で慣れない太い指で、文字を打つ。
なんて打てばいいのか悩むが心は焦れていて、言葉を思いついては誤字になり、うまく打てずに思いついた言葉を忘れて、頭を掻いて。
とりあえず書いてみたものの文脈が合わずに消して、また誤って、漢字変換がうまくいかず。
肩が凝るほど格闘して打った文字はたったの数文字。
『元気か?』
そういえば、昔怒られたんだったっけ。
そっけないって…
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