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第2章–24 親衛隊の初指令
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田口は、矢部の拘束から解放されるため、顔を思いっきり引っ張って後ろにのけぞる。
「ち、はずれた」
矢部の手が離れると、田口は三人を見る。
「おれは嫌いでした。確かに係長が嫌いでした」
「でした?」
渡辺は、目を瞬かせる。
「おれの人生で、こんなふざけた人、見たことがなくて。受け入れられませんでした」
「お前」
「言い過ぎ」
「いや、そうかも」
三人は笑う。
「確かにな。ネクタイなんかちゃんとしないし」
「局長には、食って掛かるし」
「いつも眠そうで、仕事する時、だるそうだもんな」
「そうでしょう?そう思いますよ。普通」
だけど。
「仕事には真摯に向き合うってことも理解しました」
それに。
「こんな落ちこぼれのおれに、とことん付き合ってくれるし」
本当は。
「この部署の、こういう雰囲気が馴染めなかったのは、こういう雰囲気のところにいたことがないから」
居心地が悪かった。
最初は。
だけど、今は。
「でも、今は、係長が作るこの雰囲気は好きだし、なんだかあったかくて心地がいい。それに」
「それに?」
「おれも、もっと上を目指したい。確かに10点しか取れないやつだけど、そんな自分を大きく見せたってなんにもならないことも分かりました。プライドばっかりでは仕事ができない。だから、おれもちゃんと仕事ができる男になりたいと思ったんです。そして、そう思わせてくれた係長が」
「係長が?」
「好きです」
「おお!」
口に出してしまった!
なんてこと。
田口は、はっとして口元を抑えるが遅い。
三人は、目を輝かせて拍手をする。
「え?」
「おめでとう」
「ええ?」
「お前も今日から同志だ」
渡辺に肩を叩かれる。
「市役所はやっかみや嫉妬の温床だ。こんなところで生き抜くには並大抵のことではない」
「だからこそ。おれたちは、係長に守られている分、係長を支える同志としてここにあるのだ」
矢部の話はなんだか、壮大な話に聞こえる。
アニメの見過ぎだろうな。
きっと。
だが、アニメイトでもない、二人も真面目な顔をして頷いている。
「今日からお前も同志の一員だ。心して働け」
「は、はい」
渡辺は、にっこり笑って、それから田口の肩を叩く。
「それでは第一の指令を言い渡そう」
「はい!」
「今晩、お前が係長の面倒をみろ」
「へ?」
三人は、にこっと笑うと、立ち上がる。
「会計は済ませといてやるから。あとよろしく」
「お疲れ」
「また明日な」
三人は、そう言うと、ぞろぞろと掘りごたつ式の座敷から立ち上がり、襖を開けて出て行った。
「あ、あの。ちょっと……」
こんな騒ぎなのに。
一つも起きる気配のない保住と田口は取り残された。
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