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第3章–8 夕暮れの後悔
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帰り道。
寄っていいものか考えあぐねた結果、やっぱり気になって寄ってみようと決める。
渡辺の話では、澤井が贔屓にしている病院は近くだという。
6時過ぎに退勤して、それから足を向けた。
「ここかな?」
古ぼけた病院は小さい。
街の医者と言うところか。
総合病院ばかり見慣れていると、こんな小さな病院で入院設備があるのだろうかと疑問になる。
正面入り口には、「本日の診察は終了しました」と札がぶら下がっていた。
その下に小さく「入院患者への面会は西口よりどうぞ。面会時間14時〜20時まで」と書かれていた。
「やっぱりここかな?」
そう呟いてから、西口と矢印で指し示されている方に足を向けた。
緋色のぼんやりした丸い電灯が灯る入り口は小さい。
建物自体が石造りなので、市役所と代わり映えしない時代の建造物だと言うことは窺えるが、扉の枠は木製で、白いペンキが剥がれている。
相当古いようだ。
こんな古い病院が信頼できるのだろうか。
総合病院の方がいいのではないか。
そんなこと思いながら、扉に手をかけると、施錠されているようだった。
戸惑って辺りを見渡す。
扉の横に「呼び出しベルを押してください」と記載されていた。
田口は、指示通りにボタンを押す。
と、すぐに落ち着いた低めの女性の声がインタホンから聞こえた。
『はい』
「あの、面会は可能でしょうか?」
『患者様のお名前は?』
「えっと、保住さんです」
『現在、面会に制限をかけさせていただいておりますが、ご親族ですか?』
面会できないのだろうか?
田口は、口ごもる。
「いえ。すみません。職場の部下です」
『少々お待ちください。確認いたします』
ジリジリとした機械的な音が途切れる。
入院はしている。
ここで間違いない。
しかし、悪いのだろうか?
しばらくして、かちゃんと何かがつながる音がしてから、先程の女性の声が聞こえた。
『申し訳ありません。本日の面会は難しいです』
「え?やっぱり悪いんですか?」
『病状についてもお答えしかねます。明日以降においでください』
「……わかりました」
ダメなものは、ダメだろう。
田口は、肩を落として帰途に着いた。
「保住さん……」
心配だ。
不安だ。
『田口』
保住の顔が脳裏に浮かぶ。
もう会えなくなったらどうしよう。
まだなにも始まっていない。
話したいこともある。
聞いてみたいことだらけ。
教えてもらいたいこと。
知りたい、知りたい。
あなたのことが知りたいと思った矢先なのに。
こんなことになるなんて。
なぜ、気が付いてあげられなかったのだろう?
悔しい。
田口は、ふらふらと暑い夕日の中を歩く。
心の中は、後悔ばかりだ。
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