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第8章ー1 午後の憂鬱
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木曜日。
週も後半に入って来ると、職場内の雰囲気は明るいものだ。
身体的には疲労の色が濃いが、なにせ休日が待っているのかと思うと、気持ちは軽くなるものだ。
振興係に週末はあってないようなものだが、業務と休日出勤とでは、やはり気持ちは違うものだ。
オペラの見積書を計算し直していると、外線が鳴る。
電話をとる役は、下っ端の田口の役割だ。
「はい、梅沢市役所文化課振興係の田口です」
『あの、保住と申しますが、保住尚貴くんはいらっしゃいますか』
保住……。
中年の男性の太い声。
保住の身内で、田口が知るのは、母親とみのりだけだ。
一瞬戸惑うが、相手も少し緊張しているのだろうか。
そんな間延びした田口の対応に違和感を覚えることはないようだ。
「あ、あの。失礼いたしました。ただ今、回してみますのでお待ちください」
保留ボタンを押して保住を見る。
「係長、あの。外線が……」
彼はパソコンから目を離すことなく返答する。
「誰?」
「あの。保住さんです」
言いにくそうに答える。
と、保住は目を見開いて顔を上げた。
そして、黙って受話器を取り上げる。
「保住ですが。……どうも。ご無沙汰しております」
彼の顔色は暗い。
親族だ。
祖父のことだろう。
気になる気持ちを抑えて、田口は仕事をしているフリに努めた。
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