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第8章ー6 苛々
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いつもの自分に戻ろう。
そう思えば思うほど、どうしたらいいのか分からない。
田口と過ごしてしまった時間は、巻き戻せないのだ。
一度、知ってしまったものは、忘れることができないという事なのだろうか。
孤独なんて、日常茶飯事だったのに。
田口がくれた時間は、保住にとったら心地がいいものだったらしい。
みんなが帰宅したあと、一人でパソコンと睨めっこをしていたが、仕事のことなんて考えられない。
むしろ、集中しようと考えるほど、田口のことばかり考えてしまうのだ。
イライラして、イライラしていた。
突き放したら、捨てられた子犬みたいな顔をしていた田口。
雨の中、ダンボールに収まって、クンクンと鳴いている姿が脳裏から離れない。
まるで、自分で捨てておいて、雨が降り出したから心配になって見に行く小学生のようだ。
馬鹿みたいな妄想だ。
「イライラする……二日しかもたないのか」
自分にイラついた。
パソコンのキーボードを乱暴に叩く。
「バカみたいだ!」
吐き捨てるように呟いて、パソコンを閉じる。
それから、リュックを背負い、事務所を後にする。
どうかしている。
自分が自分ではないようだ。
なのに。
今までの淡々とした生活が、いっぺんに騒がしく。
嫌なはずなのに。
田口がいないと、なんか変。
保住は、iDカードをかざしてから、暗い夜道に出た。
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