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第10章ー9 罪悪感
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「おれは、接待はしろと言ったが、売春婦みたいな真似までしろとは言っていないが」
「そうでしたか。差し出た真似でしたね。失礼致しました」
「大友はお前狙いだったが。本当に手を出してくるとはな。いいネタを作ってもらった。大友が教育長の間、梅沢は安泰だ」
こんなことになっても、自分の利益。
澤井らしい。
保住は笑う。
「なかなか優秀な部下でしょう?褒めていただきたいものですね」
流石に強気の保住も精神的なダメージが大きい出来事だったようだ。
口では大きい事を言っていても、手が震える。
はだけたワイシャツのボタンをつけようとしても手に力が入らない。
目から涙がこぼれた。
澤井は、黙って保住を見ていたが、彼のそばに来て座り込む。
「気にかけていたつもりだったが、すまなかった。お前が会場からいなくなったことに気付くのに時間を要した」
「澤井さん……」
保住は、思わず側にいる澤井の腕を握る。
体が震える。
「お前でもそんな弱いところを見せることもあるのだな」
「すみません、ただ。初めてで。初めて怖いと思いました。何故でしょうか」
「生娘でもないくせに」
「男性との経験はありません」
「そうか。どうする?昂ぶっているのだろう。お前の体は」
澤井は、無表情だが。
しっかりと保住の腕を握り返してくる。
「保住」
「はい」
「おれは、お前に謝りたかった」
「え?」
「お前の父親が死んだのはおれのせいだ」
目の前がチカチカする。
大友に触れられた体の一部が、火傷をしたみたいにチリチリするのだ。
そして、澤井に握られた腕も。
「父は膵臓癌で」
「留めを刺したのはおれの人事だ」
「そんなことはありません。あの人の問題だ」
「いや。体が弱いのを知っていて国に出してやった。案の定、体調を崩した。おれのせいだ」
「国への人事はいい話でした。それに耐えられない父が悪いのです」
本来なら、責められるべき相手は自分なはずなのに。
何故、息子が否定するのか。
澤井は苦笑する。
「お前は強情だ!父親そっくりだ」
「本当のことですよ。あの人は遅かれ早かれ死んでいた!」
「それでは謝れないではないか。おれの気持ちはどうなるのだ」
そこで保住は気がつく。
この人は許しが欲しかったのか。
父親が死んでから、苦しんでいたのだろうか。
知らなかった。
鬼みたいな形相で、のさばっているのではない。
内心は、保住の父親への罪悪感で満ち満ちていたのだろうか。
和室での邂逅を思い出す。
父親のことが「好き」だと、愛情があったと言っていた。
ふと、澤井の土色の顔に指先で触れる。
「保住」
「父の代わりでもいいですよ」
「だから、おれは……お前には、」
「それでも、少しは満たされますか」
「なに?」
「少しは解放されるのでしょうか?」
涙で潤んだ保住の瞳は、澤井の理性の箍を外すには容易なものだ。
一度は一歩手前まで行きそうになった欲は、安易に暴走する。
「やってみなければ分からんな」
澤井はそう囁くと、保住の腰に手を回して引き寄せる。
「ここはもうお開きだ。場所を変えよう」
「はい……」
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