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第10章ー13 何故、田口?
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夜の帳は、色々なことを隠す。
しかし、空が明るくなると、やはり現実に引き戻される。
うつらうつらしていたものの、隣の男が起き出す気配に意識が引き戻された。
「帰る」
「そうですか」
掠れる声に気がつきながらも、気に止めるのが面倒で黙り込む。
「やはり、お前はお前だ。父親ではない」
「それはそうです。一緒にされても困ります」
「だが、気が済んだことは事実だ」
「それは良かった……」
澤井は身支度を整えてから、そっと保住の額に手を添える。
「すまなかったな。負担をかけさせた」
「あなたから、そんな言葉があるとは思ってもみませんでしたよ」
瞳を細めると、涙が溢れる。
澤井はそれを指で拭う。
「お前はお前だと理解した。充分過ぎる時間だった。お前には悪いが、やはり父親と重ねて見ていたところが多かったと、改めて分かった。だがしかし。よく分かった。それだけで十分だ」
澤井の言葉は、よく分からないが。
自分と父との区別をつけたという事か。
「それは良かったのでしょうか」
「良いことだ。これからは、きちんとお前と向き合える」
「今までのイメージとは違ってと言うことですね」
「そうだ。しかし、今までのお前もお前だ」
澤井は珍しく、優しい笑みを浮かべてから、保住の額にキスを落とす。
「今日は、休んでも構わないが」
「いえ、昨日の分も仕事が」
「無理はするな。おれの責任だ。やっておく」
「そんなことはさせられません」
「お前は、人が良すぎる」
彼は、そう言って笑う。
「お前とはこれっきりか、これ以上か分からん」
「おれは御免です。これっきりにしてください」
「そうか。ならそうかもな」
保住の言葉に気分を害する様子もなく、彼は立ち去った。
それを見送ってから、顔に手を当てる。
「何をしているのだ。おれは……」
澤井との時間。
不甲斐ない。
田口のことばかり思い出す。
夜からずっとだ。
「くそっ。何で、田口なんだ」
大きくため息を吐く。
体も心も疲れているのに、妙に頭は爛々としている。
休むことなんて出来ない。
痛む身体を起こし、保住は身支度を始めた。
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