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第11章ー3 ボス戦 二回戦
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早朝に出勤したおかげで、保住を寝かせてから職場に戻っても余裕で間に合った。
朝一で、電話が入った、保住は休みとみんなに伝える。
「昨日、かなりお疲れだったしな」
「仕方ないな」
そんな話をしていると、澤井が顔を出した。
「保住は休みか」
渡辺が答える。
「体調が思わしくないとのことです」
「ふん、休みなんか取るかと強気なことを言っていたくせに。樣ないな」
澤井の言葉。
田口の何かに引っかかる。
知っている。
この人は。
昨晩の保住を。
乱暴に扉を閉めた澤井を追って、事務所を後にする。
「あの、局長」
自室に戻る澤井を追って、田口も彼の部屋に入り込んだ。
「おれは、お前に用はない」
「あの、係長のことです」
田口の言葉に、面倒くさそうにしていた澤井は、椅子に座り、田口を見据える。
「何だ」
「昨晩、局長は係長を送っていただいたんですよね?」
「そうだが」
「なにかあったのでしょうか?」
大友じゃない。
なんだか、そんな予感がした。
そうだった。
保住は、澤井と共に行動していたはずだ。
大友は確かに見送ったのだ。
その後に、澤井が大友に保住を渡すとは考えにくい。
大友のちょっかいを見過ごす程、保住をどうでもいい人間扱いしていない男だ。
むしろ、大友なんかに指一本も触れさせないのではないかと思う。
だって、澤井の目は自分のそれと同じだから。
同じ匂いがするからこそ、澤井が保住に近づくのが嫌なのだ。
「何かとは?」
「あの。いえ……」
息巻いたものの、なんの証拠もない。
澤井が事の顛末を話すとも限らない。
田口は、口ごもった。
それを見て、澤井は目を細めた。
「あいつを休ませたのはお前だな」
「え!」
嘘をついても仕方がない。
田口は頷く。
「今朝、出勤してきたところ、係長は仕事をしていましたが。とても仕事が出来るような様相ではありませんでした。案の定、連れ帰りましたところ、すっかり眠り込んでしまいましたので、勝手ではありますが、おやすみの報告をさせていただきました」
「そうか」
澤井は、笑い出す。
「お前は、保住が好きなのだな!」
「え、」
「好きは好きでも特別な意味合いを帯びている。尊敬や、憧れの域ではない。愛情、恋心だな」
「な、あの……」
上司に同性への恋心を指摘されるなんて。
墓穴を掘ったのだろうか。
澤井は、鋭い。
澤井には近づかない方が良かったのだろうか。
内心焦る。
市役所にいられなくなるのではないか。
そんな危惧まで心を責め立てる。
しかし。
澤井は一頻り笑うと、愉快そうに田口を見た。
「おれは、あいつの父親とは同期で、そして好いていた」
「え」
こんな話。
澤井がするのか?
田口は、黙る。
「周囲からはライバル同士だと思われていたから、表立って仲良くする訳にはいかなかったが。おれは、あいつを好いていた。意地っ張りなおれだ。こんな性格だからな。素直に気持ちを伝えることもなく、別な奴に掻っ攫われて、そのままあいつは死んだ」
別な奴に?
保住の母親のことなのだろうか?
「昨日、あいつが大友に犯されそうになっているのを助けた」
やっぱり!
大友は黒。
田口は、拳をギュッと握る。
「可愛い部下だ。そう思ったが。その時の保住と、あいつの父親と。重なって見えて。理性を抑えることは叶わなかった」
「局長……」
「おれは、あいつを犯した」
「……こんな話、なぜおれにするのです」
声を潜めて怒りを押し殺す。
「お前は、保住を愛しているようだからな。隠すことでもあるまい。あいつが言うのかどうかは知らんが、お前は、知りたいだろう?昨晩のことを」
「それは」
「なんでも答えてやるぞ」
不敵な笑みは、勝ち誇ったものなのだろうか。
拳を握りしめて、真っ直ぐに澤井を見据える。
逆境こそ、前を向く。
下を向いたらお終いだ。
「一つだけ。あなたは昨晩、何を得たのですか」
「得たものか」
彼は、少し黙り込んでから呟く。
「ハッキリしたのは、あいつはあいつで、父親ではないということだな」
田口は、頭を下げた。
「失礼いたします」
田口の気配が消えて、澤井はため息を吐く。
「少しは意地悪したくもなるだろう?」
人との情事の最中に、保住が呼ぶ名は自分ではなかったのだから。
「あいつは全く気がついていないと思うが」
保住は、結構田口が好き。
澤井はそう確信していた。
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