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第11章ー5 あなたがいてくれたから
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相当の疲れ。
ダメージだったのだろうか。
誰かの跡、いや、澤井の跡。
田口は、朝同様にそっと触れる。
ビクともしない保住。
触れたい。
そんな感覚が、一瞬湧き起こる。
身体の奥底で、疼く感覚。
緊張しているみたいに、ドキドキが激しい。
澤井が触れたなら、自分も触れたっていいじゃない。
首筋に触れたい。
指ではなくて、唇で……。
「やめよう」
やめだ。
自分らしくもない。
それでは、大友や澤井と一緒だ。
保住の気持ちも考えないで、ただ欲求を満たすことは許されない。
自分としては、そんなこと、あってはならないのだ。
拳を握りしめてから、寝室を後にする。
動悸は治らない。
違うことに取り組んで、気を紛らわせないと。
キッチンに買ってきたものを持ち込み料理を始める。
「あの人と同じ方法ではダメだ」
自分は自分だ。
保住と澤井が付き合うならまだしも、それは分からないではないか。
まだ希望はあるはずだ。
そう自分に言い聞かせる。
悶々としてしまうと、独り言が出てくるものだ。
「まだやれる!」
田口は、自分に言い聞かせるようにガッツポーズを作る。
「何がだ」
「え?!」
驚いて顔を上げると、眠そうな顔の保住がキッチンの入り口にもたれていた。
「いや、あの!ええ?!いつからいたんです?!」
独り言を聞かれるなんて。
恥ずかしすぎる。
田口は、顔が真っ赤だ。
しかし、保住はしれっとした顔で、田口の手元を見る。
「焦げ臭いぞ」
「わわ!やばい!……あーあ」
真っ黒。
がっかりだ。
「何を作るつもりだった?」
「粥です。保住さんも具合悪そうだし」
「粥は嫌いだ」
「え!」
まさかの選定ミス。
田口は、うなだれた。
ワイシャツの袖をまくり、保住は田口の隣に来る。
そして、周囲の材料を見て頷いた。
「おれがやる」
「しかし」
「お前に任せていたら、いつまでも飯が食べられないだろうが」
「それは、そうなんですけど」
田口が横に退けると、保住は慣れた手つきで玉ねぎを細かく切り始める。
「保住さん、本当手際がいいですね」
「このくらいは、独身男子だって出来ないとだろう。女子に嫌われるぞ」
「見た目だけで嫌われてますよ」
「そんなことはないだろう?みのりは褒めている」
そこまで言ってから、保住は顔を上げた。
「みのりとどうか?」
「え?」
「あいつも独り身だ。わがままな奴だから、なかなか彼氏もできない。お前なら……」
そんな話は、聞きたくない。
保住の言葉を遮る。
「それよりも。聞きたいことがあります」
真剣な視線に、保住は手を緩めて視線を返す。
「昨晩のことか?」
「そうです」
隠しても仕方がないことだ。
田口は、素直に頷く。
「お前に話さなくてはいけないことなのか」
「関係ないと言われたらそれまでですね」
田口の答えに、保住は野菜を切る手を止めた。
「お前は寡黙で大人しい割に、お節介で、どうでもいい人間まで気にかけるな」
「どうでもいいだなんて」
呼吸を置いてから、保住を見る。
「あなたは、自分を粗末に扱いすぎる。おれは心配です。仕事に対しての能力はずば抜けているのに。プライベートが酷すぎます」
言い返す事も出来ずに黙り込む。
「あなたは、おれの梅沢での生活にたくさん彩りをしてくれました。仕事でも、進むべき道筋を導いてくれた。初めて仕事でやる気が出ました」
田口は、じっと視線をよこしたまま続ける。
「プライベートもそうです。こんなつまらない男なのにこうして時間を共有してくれる。正直、いつ雪割りに帰ろうか悩んでいたのです。だけど、梅沢にきてよかったと思わせてくれた」
田口は、真摯に見る。
その視線は、まっすぐで。
自分が情けなくなった。
「あなたは、おれにとったらどうでもいいとか、そういうものではないんだ」
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