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第11章ー7 田舎犬の決心
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ただ、やりたいように勉強をしてきた。
好きな道に進んで。
市役所に入ってつまずいた。
父親の影響が強すぎて、自分が何なのか分からなくなった。
自分は誰?
何をしなければいけないのか。
父親の真似事をしているのではないか。
自分の思うようにやればやるほど、父親に似ていると言われて、どうしたらいいのか分からない。
だからなのだろうか。
人間関係のうだうださは、父親への反抗心もあるのかもしれない。
保住は、笑い出す。
「おれは、馬鹿だ、馬鹿。笑ってくれ、田口。最低だ!同性の、しかも既婚の上司と平気で寝るような男だ、最低だ……」
笑え。
軽蔑しろ。
嫌え。
保住の言葉の端々にはそういう意味が込められているが、田口にはそうは聞こえない。
助けて。
傷ついている。
痛い。
辛い。
自分をそんな目で見るな。
保住の本心がそう訴えてくるのだ。
田口は、たまらず保住の肩を引き寄せて抱きしめた。
「な、何を……っ!離せ!」
「離しません」
「田口!」
「一人で頑張らないで。おれが側にいます。支えますから。あなたを取り戻して。あなたは、ここにいるのです。亡くなったお父様ではない」
「……っ」
人に触れられるのは嫌だ。
昨日の件も相まって、余計に体を触られたくないはずなのに。
田口は暖かい。
危害を加えようとする敵ではないと認識する。
暖かい。
保住の心を癒してくれるのか。
「おれは、あなたの良いところだけじゃなくて、悪いところも全部引っくるめて知りたい。同僚ではないと思っています。友達とでも言うのでしょうか?友達だったらズケズケ言います。悪いところは悪いって」
友達なんて、一人もいない。
田口の暖かさは、友達だからなのか?
保住の瞳は見開かれて、そして涙が溢れる。
父親のことを知らない田口。
だけど、父親の事情も理解してくれる田口。
色々なことを一緒に経験した。
田口の実家に世話になったことは、彼を理解するのに十分な時間だった。
そして、祖父との邂逅にも立ち会ってくれた。
今日はこんな情けない、普通だったら軽蔑や侮蔑の対象になるようなことをした自分に、こうして支えてくれると話すのだ。
こんな人間は、初めて。
どんなに嫌なことをさらけ出しても、離れていかないのか。
今日のこれは、自分の中でも最低な部分だ。
これ以上、さらけ出すことが出来るものはないくらいの。
他人に、ここまで見せたことはないはずなのに。
見せたくないのに。
田口には、見せてしまう。
見られてしまう。
父親ではなく、本当の自分を。
「こんなおれなのだぞ……、最低最悪な人間と、付き合う程の価値があるのだろうか」
「ありますよ。おれはもう、すっかり保住さんとは、友達ですからね」
「お前は、大馬鹿野郎だな」
「前にも同じようなこと言われてますから、気にしません」
保住は、嗚咽を洩らす。
辛かったのだな。
いつも、誰にも寄りかかれない人だ。
期待のエリート。
仕事は、何でもこなす。
彼に出来ないことはない。
そう言う目で見られていて、いつの間にか、自分でもその型にはまっているのだ。
人に弱味を見せるなんてことが出来ない人だ。
唯一見せていたのだとしたら澤井だろう。
彼は、常に保住の上司である。
立場が逆転することはない。
だけど、全てを見せることは難しい。
澤井は、保住の父親の影を追い求めている人だからだ。
澤井の本心は分からない。
ただ、焚きつけられている気がする。
田口の押し隠している恋心を知られているのだ。
澤井がどう言うつもりなのか、全く分からない。
だけど。
自分の腕にすがって泣く保住を見て、それはそれで、どうでもいいことだと思う。
自分は引き返せない。
もう。
心に決めたのだ。
保住の側にいる。
彼を支える。
例え、自分の気持ちを伝えられなくても。
彼が別の誰かに心を向けたとしても。
彼のために、全てを捧げよう。
そう決めたのだった。
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