アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第11章ー8 お友達の先輩です
-
「情けない限りだ」
翌日。
保住は、大きくため息を吐いた。
「そんなことはないですよ。そんな保住さんも保住さんじゃないですか」
田口は結局、途中になったキッチンの後始末をしながら笑う。
「本当にお前は人が良すぎるな。笑ってしまうくらいだ」
「そうですか?なら笑ってください」
全く話にならない。
保住は笑う。
「敵わないな」
「え、なんか言いました?」
小さく呟く声は届かないか。
田口に「支えるから」「悪いとこは悪いと言います」と言われて、悪い気がしないのはどうしてなのだろうか。
ガチャガチャとやっている彼の様子に気がつく。
不器用で、上手く出来ていないのだろうな。
そう思い、重い腰を上げる。
身体のあちこちが軋む。
それだけ負荷があったのだろうな。
「何をしている」
「片付けです」
片付けどころか、散らかしの様相を見て、保住は腕まくりをする。
「そんなやり方ではダメだ」
「すみません」
黙々と片付けていく彼は手際がいい。
「保住さんは、仕事だけじゃなくて家事も素晴らしいですね」
「昨晩も話した。今時は、男もやれないとおかしいだろう?彼女の一人もできないぞ」
「彼女なんていりませんよ」
田口は、きっぱりと言う。
「お前な。あっという間に年を重ねていくだろうが」
「それは保住さんにも、そっくりお返しします」
確かに。
「確かにな。その通りだ」
「どうせ、保住さんだって家庭を持つなんて考えられてないでしょう?だったらおれにも言わないでくださいよ」
「すまない」
何だか保住の方が言いくるめられているようだ。
「お前は、人がいいと言ったが撤回だ」
「え?」
「性格が悪い」
「だから友達いないんです」
「可愛くない!」
「可愛いなんて言われて喜ぶような人間じゃありませんから」
何か言えば屁理屈。
保住は、ため息を吐いて苦笑した。
「もういいや。疲れた」
「すみません。手伝わせたのに」
「構わない。おれのやりかけだ」
結局、食材は無駄になった。
「田口」
「はい?」
田口は手を止めてから、保住を見る。
「おれなんかと付き合うとロクなことはないが、職場の職員の枠を超えて話をしてくれるのか」
「それは、昨晩も話した通りです。友達という言葉が適切とは思えませんが、職場の域は超えています」
「だな」
彼は、自嘲する。
「おれは、本気でプライベートの知り合いがいなくてな。どうしたらいいのか分からないのだ」
「保住さんでも分からないことがあるのですね。嬉しいです」
田口は、笑顔を見せてから、屈み込む。
「友達のことはおれの方が少しは経験済みですよ!任せてください」
「そうか、そうだな」
「それに、今まで通りにしてください。別に気負うことはありません」
「そうか」
保住の首筋に残る澤井の跡を見るたびに心がざわつく。
だけども、こうして時間を共有したい。
まずはそこから。
始まりなのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
124 / 344