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第12章ー3 田口の弱み
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ハンドルを握りながら、隣に座って書類を眺めている保住の横顔を盗み見る。
最初の年は、運転させてもらえなかったが、ここのところ、ちゃんとハンドルを握らせてもらえている。
田口からしたら、上司に運転をさせるなんて、ありえないことなので、しっくりくるこの構図が心地いい。
そんな気持ちでいると、ふと保住が顔を上げた。
「澤井は、何だって?」
こっそり見ていたことがばれたのかと、一瞬焦るが、彼はそういうつもりはないらしい。
「星野一郎ドラマ化の企画書の件です。時間をかけすぎだと怒られました。悠長にやっていると、市民からノロノロしていると苦情が出ると言われました」
「そうすぐに成就する内容でもないのだが」
「局長からすると、おれの進め方は、スローペースみたいです」
「そうか。早められるものか?」
「厳しいでしょうね。早められない理由を企画書に盛り込んで理解してもらいます」
「いつまで?」
「明日です」
「無茶言ってくれる」
保住は苦笑する。
「すまないな」
「はい?」
「おれといるから、とばっちりだろう」
「いえ。そうは思っていません。むしろ、直接指示をしてくれているので、少しは信頼されているのではないかと自負していますが」
「お前は、前向きだ」
「そうでしょうか?」
そうだろうか。
周囲は、田口に対する嫌がらせと思ってるようだが。
本当にパワハラまがいの嫌がらせをするなら、急所を突くようなネタがあるではないか。
田口が一番怖いこと。
それは。
保住に、田口の思いを告げ口することだ。
「田口は、お前を好いているぞ」と一言、言われたら。
田口は、アウトだ。
多分、退職するだろう。
彼の側には、いられない。
こんな気持ち。
絶対に知られてはいけないことなのだから。
しかし、澤井はそれを重々理解しているのにやらない。
それは、田口を追い詰めるようなことをしようという気はないと言うことだ。
むしろ、「どうなっている」と聞いてくるのは、どういう了見なのか。
田口には、理解できない。
保住との関係は、純粋に父親の代替えだったのだろうか。
保住本人に対しての思いがないのだろうか。
理解できない。
ライバル的な関係の自分を心配するのだろうか。
それとも、性根までは腐っていないということなのだろうか。
分からない。
「切羽詰まった仕事があったのに午後、付き合わせてしまったな」
「いえ。平気です。内容は決まっているのです。ただ、局長が納得するような見せ方を悩んでいます。係長、時間がある時でいいので相談に乗ってくれませんか?」
田口の申し出に、保住は頷く。
「差し迫ったものはない。夜付き合える」
「それは良かった。すみません、助かります」
こうして、二人の関係は代わり映えなく続く。
田口にとったら、それは嬉しいことでもあるのだった。
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