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第14章ー5 出張
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「いいのか、田口」
新幹線の席に座ると、澤井が意地悪そうに保住を見た。
「別に」
「そうか?心中穏やかではないと顔に書いてあるが」
「いい加減にやめてくださいよ。観念したのだから」
「いじめるなとでも言うのか?お前が」
澤井は愉快そうに、保住を眺める。
「そうですよ。こう見えても悩むタイプなんですから」
「だろうな。仕事は破天荒だし、プライベートもグタグダな割に、妙に社会規範には縛られる」
「育ちがいいもんで」
「お前のご両親を見ていれば分かる」
「なら、からかわないでくださいよ。あなたとこうしていることすら、おれにとったらストレスなのはご存知ですよね?」
むっとしている保住の右手、指を一本一本撫でるように触れる。
「澤井さん、」
「奥さんと別れてくださいの一言でも口にしてみろ」
「ご冗談を。貴方にとったら遊び以外の何ものでもないでしょう?」
「そうだろうか?強気なくせに、妙にしおらしいところもある。寂しいのだろう?離婚してやってもいいぞ」
澤井と話すと、堂々巡りで疲れる。
保住は閉口した。
田口と過ごした時間は違う。
優しくて心地がいいのに。
彼との距離が遠い。
保住も、そう感じていた。
元には戻れない。
そう感じるのだった。
澤井と保住がやってきたのは、東京の高級住宅が立ち並ぶところだ。
目的の一軒家のチャイムを押すと、二人は快く迎え入れられた。
昨日。
オーケストラの辞退の申し出があったので、梅沢オペラの総音楽監督兼指揮者をお願いしていた男に不手際の謝罪と、今後の相談に訪れたのだ。
オペラを上演すると言うことは、各団体や出演者がバラバラに演奏するのではまとまらないものだ。
舞台の総監督が必要なのだ。
舞台のセットや、出演者たちの動きは、地元出身の演出家に依頼してある。
そして、こちらは音楽の総監督になる。
梅沢出身で、世界的に活躍している指揮者、関口圭一郎である。
彼は、現在はこちらの自宅に拠点を移しているので梅沢に顔を出すことは稀のようだが、梅沢への愛を持っているようで、多忙な中、二つ返事で出演を受けてくれていた。
そんな、雲の上のような人物に、オーケストラの辞退の話をして、呆れられて、音楽監督を降りられたら困る。
澤井は、保住を連れ立って、電話ではなく直接話しをすることを決断したのだ。
幸い、彼はオフで自宅にいると言うことも分かったからだ。
世界中を飛び回っている彼が、日本に滞在する時間は希少だ。
このチャンスを逃すわけにはいかないからだ。
経費は後付け。
二人はさっそくこうして、関口圭一郎の自宅を訪れた。
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