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第14章ー18 彩られる世界
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「保住さん、気が付いていますか?」
「え……?」
「保住さんが言っていることって、『おれは田口が好きだから、誰とも仲良くするのは許さない』って聞こえます」
「なっ……!」
これでもかと保住の顔が赤くなる。
恥ずかしさでますますだ。
「な、何をバカな……っ」
田口は、そっと保住のネクタイに指をかけてから緩めた。
「田口」
やめさせようと腕を掴んでも敵わない。
ワイシャツのボタンを2つ外してから、保住の白い首筋に残る跡を確認した。
「田口……っ」
「澤井さんですね」
前にも見た。
最愛の人に付けられた他人の跡。
執拗に何ヶ所も残されている。
澤井のやり方は尋常じゃない。
保住を所有物としてしか、見ていないのではないかと疑問になる。
「……っ、これは、」
「お付き合い始めたんですか?」
「それは……」
また、はっきりしない答え。
肯定か。
しかし、田口は怯むことない。
だって。
今の保住の様子を見たら。
澤井とのお付き合いは。
「それは本意なのですか」
「そ、そうだ。おれは……っ」
「ほらまた」
田口はそっと保住の頬に手を当てる。
「そんな辛そうな顔して。どうして幸せそうな笑顔を見せてくれないのです?」
「それは……」
「本気で澤井と付き合っているのなら、幸せそうにしてくださいよ」
「……」
保住は黙り込む。
今にもまた、涙がこぼれ落ちそうなくらい、辛そうだ。
「あなたの気持ちは何処にあるのでしょうか?」
気持ち。
自分の気持ち?
保住は、ぼんやりと、思考に意識を向けた。
『誰の目も構わずに自分の心の赴くままに生きていくことも一つの選択肢だ』
あの時の、夢の中の父親の声が響く。
「すみませんでした。おれの覚悟が決まらないから。嫌われたらどうしよう。おれの気持ちを知られたら、きっと気味悪がられて、あなたの側にはいられないと臆病になっていました」
田口は屈みこんで、保住の目をしっかりと見据える。
逸らしたいのに、彼に魅入られたように視線を外すことは出来ない。
「だけど、あなたの事。やっぱり諦めきれないって、この数週間でよく分かりました。嫌うなら嫌ってください。軽蔑してください。ただ、あなたの今日の言葉を聞く限り、おれには全く叶わない夢ではない気もしています」
田口の言葉。
夢現つのようだ。
「保住さん、おれ。あなたが好きです。ただの友達なんかじゃない。愛しています。おれは、あなたのためだけにありたい。だから、あなたにもおれだけを見て欲しい」
保住は目を見開いた。
何かがストンと落ちたように。
緊張で張り詰めていた糸が緩むのが分かる。
「田口」
「例え、澤井さんとお付き合いしていても、おれの気持ち知っていてください。澤井さんと付き合うのかどうかはあなたの気持ちだと思うし、だけど、それは結構、おれは嫌で。えっと。何て言うのかな……」
眉間にしわを寄せて悩む。
「えっと」
「澤井と別れろと言え」
保住は、ポツンと呟く。
「え?」
小さくて聞き取れないそれは、確実に田口の耳に届く。
だけど、理解するまでに時間がかかるのか。
目を瞬かせて、保住を見下ろした。
「おれと付き合えと言え」
「あ、はい!それです!」
田口は、言いたいことが見つかってほっとしたのか。
笑顔を見せた。
「そうです!おれと付き合え!澤井とは別れろ!です!」
田口の笑顔は眩しい。
純粋で素直。
あったかい。
澤井といると、寂しさは紛れる。
だが、彼とは違う。
田口は、保住に安心感や、自信、満たされた感情を与えてくれる。
これが好き?
好き。
胸がキュンとして、じんわりあったかい。
コツンと田口の胸に額をぶつけると、距離が縮まった。
「分かった。お前の言う通りにしてやる」
モノクロの世界が、一瞬で鮮やかな色を取り戻す。
田口は、そっと保住の肩を引いて抱き寄せた。
「すみませんでした。遅くて」
「本当だ。このノロマ」
彼は、そっと田口の肩に顔を埋める。
そんな仕草が嬉しい。
保住に触れられたのだ。
腰に回した腕で、しっかりと抱きしめる。
想像以上に細い身体。
力を入れたら折れそうだ。
「保住さんが引っ張ってくれないと、何も出来ない男です」
「……馬鹿者が」
恥ずかしいのか。
俯いて顔を赤くしている保住が愛おしい。
好き。
そんな言葉では片付けられないほど、夢中。
田口は、小さく笑って呟いた。
「すみませんでした」
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