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第14章ー20 貸し
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親子ともに思い通りにならないものだ。
父もまた。
澤井の思いとは裏腹に、別な人間の手を取った。
「息子もか」
最初から分かりきっていた事だが。
その時が来ると、さすがの澤井も応える。
田口は、焚きつけないと動かないタイプだ。
あのままだったら、ずーっと黙って保住の脇にいるだけ。
異動が彼らを分かつだけだ。
保住は保住で、自分の気持ちを知る能力が低い。
誰かの力がないと、結果は同じ。
何事もなく何年も過ぎるか。
別れるかのどちらか。
「もどかしいだろう」
自分もまた、同じ。
黙って思いだけを育てて。
周囲からは、ライバル扱いをされた。
表立って彼と会話をする事すら許されなくなってしまったのだから。
『澤井は、おれが嫌いかも知れないけど、おれはそうでもないんだがな』
会議の後。
ふと言われた時の彼の横顔が忘れられない。
ニコッと笑った顔は、澤井には刺激が強過ぎたのだ。
『保住、おれはこんな男だ。何処でどう間違ったのか。お前とは同じ立場で仕事をしたかった』
その時の言葉は本音。
それを受けて、保住はさらに笑っていた。
『今からでも遅くないだろう?周りが作り上げたものだ。一緒にやろう。お前とおれが組んだら、梅沢はよくなると思うんだよな』
『買いかぶり過ぎだ。お前の周りには吉岡や水野谷がいるだろう』
『そう言うなよ。あいつらはあいつらだ。澤井は決断力もあるし、長期的な見方に長けている。それに、誰よりも梅沢を愛しているじゃないか。色々教えてもらいたいことが、沢山ある』
『よく言うよ』
あんな他愛もない話だったのに。
澤井にとったらあれが、最後の邂逅だった。
国にやったのも。
保住を支援しているつもりだったのに。
死んでしまうなんて。
「馬鹿野郎」
澤井は、そう呟く。
病気が発覚してから、復帰や入院を繰り返していた保住の隣にはあいつがいた。
取られた。
そう思った。
「あいつは、嫌いだ」
澤井は、思い出しただけでムカムカする。
ハンコを乱暴に引き出しにしまった。
保住の事は好きだ。
だが、やはり。
父親とは違う。
あわよくば、関係を持てたらよかったが。
「おれも人がいい」
やはり息子は息子。
田口と上手くやれればいいのだろう。
惜しい気はするが、グダグダと誰かに縋ったり泣いたりするような情けない姿を見せるなんて、プライドが許さない。
譲るのは今回だけだ。
何度も何度も。
次にこんな機会があったら、力尽くでも従わせて自分のものにする。
泣いて許しを乞うても、手放す気は無い。
澤井は電気を消して退勤した。
「貸しを作ったぞ。田口。何れ何倍にもして返してもらおう」
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