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第15章ー1 しかし、進まない。
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田口と保住の付き合いは、スローステップ。
いや、全く進行しないとでも言うのだろうか。
「田口!報告書」
「すみません、今直し中で……」
「遅い!後10分」
「承知しました!」
他の職員の間をやり取りする二人の声は、日常茶飯事になる。
「最近、係長が局長化してきてないか?」
矢部は、苦笑いだ。
「なんだか、可愛がられるというより、尻に敷かれてる旦那だな」
「え?何ですか?」
田口は、パソコンから目を離さずに応える。
「いや、いいや」
苦笑い。
渡辺も同様。
「スパルタも愛だろ」
「そんな愛、おれはキツイ」
「田口はM。ドMだろ?」
「え?おれのことですか?」
田口は、顔を上げる。
「何でもないよ。さっさとやらないとタイムオーバーだぞ」
「はい」
「矢部さん」
そんな話をしていると、今度は矢部に声がかかる。
「おれか。はい!係長」
矢部は舌をぺろっと出してから、保住の元に走った。
オペラの準備は佳境だ。
本番まで三ヶ月。
来週から、巷は年末年始。
しかし、ここの部署にはお正月なんかこないのではないかと思うくらい忙しい。
「出来ました!」
田口は書類を抱えて、保住のところに行く。
「受け取っておく」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げてから、席に戻る。
昨日。
クリスマスと言われるイベントがあった。
友達以上恋人未満みたいな、微妙な関係性の田口と保住。
田口としては、何か進展するのではないかと大きな期待を持っていたところだったが。
結局。
何もなく。
仕事の話をして、気がついた頃には保住は夢の中だ。
毎日忙しくて、精神的にも疲れているのだろう。
そんな彼を起こす気にもなれず、田口はため息を吐くしかないクリスマスだった。
贅沢な悩みなのかもしれない。
喧嘩みたいになっていた時から比べると。
澤井と付き合っていた頃と比べると。
今は、完全にいい状態だ。
だけど、やっぱりその先まで持っていきたい。
そう思うのが普通なのではないだろうか。
「難しいものなのだな……」
田口は、呟いた。
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