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第15章ー4 本当に好きなのか
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「みのり!昔からバカにされるから好かん。誕生日は嫌いだ」
「バカにって……」
「お兄ちゃんの誕生日は、女の子の日。お雛様の日よ」
「言うなよ」
「3月3日ですか」
田口は、保住を見る。
彼は、困った顔をしていた。
「この年で気にする必要もないが。昔から、からかわれていたからな。トラウマって言うやつだ」
「そうなんですね」
「可愛いでしょう?」
みのりは、ほわほわ~と笑う。
こんな調子では、なかなか彼氏もできないのだろうなと田口は思う。
みのりを受け止めてくれる人じゃないと無理か。
保住を面倒見ているような感じだ。
天然で、好き勝手なタイプ。
「まったく。みのりといるとロクなことにはならん。帰るぞ。田口」
「あ、でも。みのりさんは……」
「母さんがいるから大丈夫だろう」
保住は、帰宅し始めている親族の間を縫って、母親を見つける。
「おれたち帰るから」
彼女は、いろいろな親族に挨拶をして回っていたようだ。
淡いベージュのドレスは上品な淑女だ。
みのりは、母親似。
ぱっと派手な顔つきの彼女は、美人としか言いようがない。
田口ですら、一瞬視線を奪われる。
「帰るの?家こないの」
「田口もいるし。送っていかないと」
田口は「すみません」と頭を下げる。
「送って行かないとって、あなたも飲んでいるんでしょう?みのりのことを一人で連れて帰るのも大変だし。いいじゃないの。田口くんも家に来れば」
「来ればって」
「あら!昨年、田口くんの実家にお世話になったのでしょう?御礼も出来ていないんだし。こんなお正月くらい家でゆっくりしてもらわないと」
「母さん」
弱った顔をして、保住は田口を見上げる。
どうする?
やめておけ。
そんな顔。
田口は、苦笑して頭を下げる。
「それではお言葉に甘えてさせていただきます」
「え?!」
保住としては、「断れ」と言っていたつもりだったが。
「あら、素直で可愛いわね!じゃあ、行きましょうか」
母親は、ご機嫌。
「みのりはどこかしら?」
そんなことを言いながら歩き出す。
「何でいつもは察しがいいのに」
ため息。
田口は、頭をかく。
「すみません。酔っているのでしょうか?」
「いい。お前に負担がないならそれでいい。正月を一人で過ごすのは、良く無いからな」
「ありがとうございます」
「こちらこそ、すまない」
「保住さん、遠慮は辞めてください。おれ、結構楽しいんです。保住さんの色々なことが分かるし。嫌なら嫌って言います。だから、謝らないでください」
「そうか」
田口は、そっと保住の手を取る。
「触れてもいいですか」
帰宅する人たちで、ガヤガヤしている廊下。
インテリアとして配置されている背の高い観葉植物の影になって、周囲からはよく見えない。
「田口……」
保住の骨ばった細い指。
ぎゅっと握られる。
手を握るだけで、一々許可を取る田口に苦笑いするしかない。
大友の不躾なキスや、優しいけれど遠慮のない澤井のキスとは違う。
田口は、不器用だが、そっと大事に触れてくる。
「お前は、本当におれが好きなのか」
「好きですよ。あなたが」
「そうか」
何故、何度も確認したくなるのだろうか。
田口は「好きだ」と言ってくれているのに。
たまに不安になる。
分かっているはずなのに。
「なお!タクシー来たから帰るわよ」
母親の声。
田口が触れていたところが暖かい。
「行くぞ」
「はい」
名残惜しそうな田口を引き連れて、保住は歩き出した。
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