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第15章ー7 圧迫骨折
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田口は、保住を車に乗せる。
自分の車は自宅なので、保住の車を運転する。
何も構わない男だ。
係長にもなって、水色の小さい車だった。
「可愛いですね。相変わらず」
「みのりからのお下がりだ。一々言うなよ……いたた」
助手席に乗る時も、冷や汗たらたら。
本気で痛むようだ。
「打撲とはいかなそうだ。筋肉ないから。てき面ですよ」
「そう言われても……」
言葉も出ない。
保住は、じっと痛みが和らぐ姿勢になって黙り込む。
澤井から指示された整形外科に到着し、一時間の待ち時間を終えて通院に漕ぎ着けた。
「圧迫骨折?!」
事務所に戻ったのは昼過ぎ。
留守番をしていた3人は、呆気に取られる。
「腰部の圧迫骨折です。自宅安静だと言っていましたが」
痛み止めを山のように出されたお陰で、少しは動けるが、それでも座っているのもキツイ。
「コルセットができるのに数日かかるので、それまでの間の辛抱です」
腕で机に体重をかけるが、どうしようもない。
「痛い……」
「係長って、本当に話題に事欠きませんね」
「圧迫骨折って、年寄りの病気じゃないんですか?」
「まさか、こんな事になるとは……」
みんなが心配そうにしている中、田口は澤井のところに向かう。
保住は帰さないといけないだろうし、呼ばれていた内容も気になる。
「田口です」
声をかけると、澤井の声が聞こえてくる。
「入れ」
「はい」
澤井は、詰まらなそうな顔で田口を見る。
「で」
「はい。圧迫骨折です」
病名を告げると、澤井はため息だ。
「全く手がかかる。早く帰らせろ。安静にしないとダメじゃないか」
「はい。医師からは1カ月は安静にと言われましたが」
「言う事きくわけがないな」
「その通りです。せめて2週間は自宅で安静。コルセットをして、無理をしない約束なら復帰もいいかもしれないが。それも、再受診をしてからの許可がないとダメと言われました」
「だろうな。この忙しい時に。あいつは昔からそうだ。肝心な時に何かしでかす」
面倒そうな言い方だが、表情は固い。
ああ、そうか。
心配しているのだ。
そうか。
澤井は、やはり。
保住を大事にしている。
「ともかく。2週間は、自宅安静にするしかあるまい」
「はい」
澤井は、また軽くため息を吐いてから田口に書類を一枚渡す。
「明日から、関口圭一郎とオーケストラが来日する」
書類の中身は、オーケストラの練習日程と場所が書かれている。
「本来は、保住に行かせる予定だったが。あいつが使い物にならないのなら、お前行ってこい」
「おれ、ですか?」
「白丸が付いているところは、佐久間と一緒だ」
東京への出張が一カ月で5回。
本番前は、地元練習だ。
「分かったか」
「承知いたしました。しかし……」
「お前は嫌いだが、少なくとも他の奴らよりは任せられる」
「すみません」
嫌いか。
内心、笑ってしまう。
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