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第16章ー2 音取り
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二人がやってきたのは、東京都内のとある音楽大学の講堂だった。
私立大学で、校内に素晴らしいホールを兼ね備えているところだ。
資料では見ていたが、到着してみると、一大学が所有しているのかと思うほどモダンで素敵なつくりのホールだった。
梅沢にはいくつもホールがあるものの、どれも足元に及ばないのではないかと思ってしまうほどだ。
「勉強になりますね」
田口が呟くと、佐久間もその意図をくみ取ったのか。
頷く。
「ホールも統合していく方向だからな。参考にしておこう」
「ですね」
梅沢市内にあるこういったホール施設は、すべて老朽化がはなはだしい。
最近、市長の意向もあり、市内のホールを統合し、新しい施設の話が持ち上がっているところだ。
できれば、駅周辺に、大掛かりなホールを建設し、他のホールをつぶす。
それが、現在の方向性。
ホールを複数抱えるような財源はない。
稼働率も半分を切っているところもある。
様々な問題が上がっている中での話だ。
時間は昼少し前。
ホワイエに足を踏み入れると、中ではスタッフらしき人間が忙しそうに動いている。
その中、ふと視界に入ったのは、長身の眼鏡姿の男だった。
彼の周りには、複数の人がいて、彼に何やら相談をしている。
「それは、予定通り」
「わかりました」
「こちらの件は、少し保留で。マエストロに確認してみましょう」
「わかりました」
そんなやり取りをしていた男だが、佐久間や田口に気が付くと、スタッフと話すのをやめて、まっすぐに歩み寄ってきた。
「梅沢の方でしょうか?」
佐久間は慌てて頭を下げる。
「梅沢市役所文化課課長の佐久間です」
「初めまして。関口圭一郎のマネージャーをしております有田と申します」
礼儀正しい男だと、田口は思う。
『マエストロのマネージャーの有田は切れる男だが、悪くはない。困ったことがあれば、彼を通すように』
保住がほめていたことを思い出す。
「同じく、文化課振興係の田口です」
有田は、二人を交互に見てから、顔色を悪くする。
「あの。保住係長さんがいらっしゃるとお聞きしていましたが」
佐久間が答える。
「申し訳ありません。保住は体調を崩しまして。急遽、田口が参りました。事前にご連絡を差し上げずに、申し訳ありませんでした」
佐久間からしたら、今日この日に誰が顔を出しても問題はないと思っていたのだが。
有田の反応を見て、なにかしくじったかと思った。
田口も同様だ。
頭を下げる。
有田は、苦笑いだ。
「いえいえ。結構なんですけど。それよりも体調を崩されたとは。一体、大丈夫なのでしょうか?」
「ええ、まあ」
佐久間が言葉を濁すのを見て、これ以上踏み込むのはやめよう。
そう判断したのだろう。
有田は言葉を切ってから、ホールを見る。
開かれた扉からは、音楽が響いてきている。
「先ほど、始まったばかりです。あと40分程度で休憩が入る予定ですので、それまでお待ちいただけますか?」
「大丈夫ですが、我々も見学は可能でしょうか」
「勿論です。ぜひ」
有田はそう笑顔で答えると、佐久間と田口を連れ立ってホールに入った。
ステージにはオーケストラが座り、その中心で針金のような男が指揮を振っている。
彼は、腰の高さの椅子に軽く腰を下ろし、譜面台を棒でたたきながら拍を取っているようだ。
『オーボエ』
『チェロ、音違う』
カッカッカとなる軽い音に合わせて音を鳴らしている楽器たちに指示を出す。
こんなにたくさんの楽器が一度に音を鳴らしているというのに、音の違いなどを聞き分けられるなんてすごい。
客の入っていない客席を眺めて、少し違和感。
音楽を聴きに行くことは少ないから、どちらにしてもなじみのない場所であることには変わりがないが、人がいないホールと言うものは、なんだか変な感じがした。
有田に促されて、二人は、中ほど上くらいの真ん中の席に座る。
「今日は初回なので、譜面の読み合わせです。音楽と言える代物ではないかもしれません」
「はあ」
佐久間は目を瞬かせる。
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