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第16章ー4 痛み、貰い受けたい
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夕方の新幹線。
佐久間は疲れ切ったのか寝込んでいる。
そんな彼を残して、田口は携帯を手にデッキに出た。
数回のコールの後、耳に響く声はかすれていた。
「終わりました」
田口の言葉に相手は『ありがとう』と言った。
「音楽の事は分かりませんが、有田さんの話ですと順調との事です」
『あの人がそう言うなら、間違いないのだろう』
有田の事は高く買う。
田口は面白くない。
「係長、次は来週末です」
『おれは行けそうにないな。またお前に迷惑をかける』
「おれは構いませんが。痛みはいかがですか?」
『変わりない。明日コルセットが出来るというが。取りに行くのがまた一苦労……っ』
時折、痛そうに言葉を切る。
横になっていても、身体が動くと痛むのだろう。
「お供いたしますか?」
『仕事があるだろうが。そんな過保護されなくていい』
「しかし」
『運転は夢のまた夢だ。母親に同伴してもらう。この年で恥ずかしいものだな』
「仕方ありませんよ。本来なら入院してもおかしくないんですから」
ガタンゴトンと低く響く音は心地いい。
壁に背を預けて田口は目を閉じる。
「……あなたに会いたい」
『田口』
保住は気恥ずかしそうにして、黙り込む。
「明日、仕事帰りに立ち寄ってもいいですか」
『忙しいのだ。無理をすることはない』
「いいえ。是非お願いします」
保住に会いたい。
保住に触れたい。
『好きにしろ』
「ありがとうございます」
代わってあげられたらいいのに。
痛みくらい。
受け取れる。
仕事も出来なくて、きっと辛いだろう。
携帯を握りしめて、真っ暗な外を眺める。
「早く良くなりますように」
心からそう思う。
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