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第16章ー7 前日
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オペラ上演前日。
会場となる市民会館は、オーケストラや合唱団など、沢山の人でごった返していた。
「谷口、宮内さんはまだか」
渡辺の声に、谷口は応える。
「矢部さんが駅まで行ってますが、まだ姿が見えません」
「見つけられないのか?まったく。田口、合唱はどうだ?」
「全員集まっています。控え室で待機です」
「予定通りだな」
「いやあ、このホール古いなあ」
スタッフがホワイエで確認作業をしていると、関口圭一郎が有田を連れてやってくる。
ホールをくまなく見たようだ。
「申し訳ありません。星音堂では手狭でして」
「仕方ないね。でも、もっといいホール作らないとダメだね。考えないと」
「まったくですね。ご意見ありがとうございます」
「市長も来るって言ってたよね。話してみよう」
圭一郎はそうは言うが、機嫌が大変いい様子だ。
地元は嬉しいのだろうか。
じっとしている田口に気がついたのか、彼は駆け寄ってきて、田口の手を握る。
「おお!青年」
「マエストロ。どうぞよろしくお願いします」
「またまた、硬い!君は硬すぎるのだ!だが、そこがいい!!」
よく通る声は、ホワイエで作業をしている他のスタッフにも笑いを誘う。
いつもは、総務係の手伝いに駆り出されている振興係だが、今日は逆。
文化課総出でのお手伝いだ。
「ありがとうございます」
そんな話をしていると、作曲者の神崎がやってくる。
「銀太!久しぶり〜」
「先生」
銀太?
渡辺たちは苦笑いだ。
「おお、神崎くん」
圭一郎は神崎を見る。
「あらやだ!先生。ご無沙汰〜!桜連れてくれば良かったね」
「桜は元気?」
「元気よ〜」
桜とは、あのラプソディの無愛想なママか。
圭一郎と知り合いとは。
田口は、黙って様子を見守る。
「かおりは?」
「まだです」
有田が答える。
かおりとは、宮内かおりか。
音楽家はみんな知り合いなのだな。
そんな事を考えていると、黄色い声が響く。
「ごめーん、遅くなって」
「遅くなりました!」
矢部は、汗を拭き拭きやってくる。
宮内かおり。
日本を代表するプリマドンナだ。
声楽家と言うと、ちょっとふくよかな女性を想像しがちだが、彼女は痩せ型。
しかも、クルクルとカールをした茶色い髪と、ぱっちりとした目元は、愛らしい容姿だ。
歌もすごいがビジュアルもいいと評判で、この業界では飛び抜けて人気がある女性だ。
噂や写真では見聞きしていたが、実際に見ると、男性なら視線が釘付けになってしまうほどに可愛らしかった。
今回の目玉は彼女の出演と、関口圭一郎の指揮。
かおりはきゃっきゃと走ってくると、圭一郎に飛びついた。
「やだー、圭ちゃん、何ヶ月ぶり?」
「半年は会っていないだろうか?」
有田は答える。
「正確に言えば六ヶ月半ですね」
「元気してた?」
「この通りだ」
二人のべったりぶりに、一同は目が点になる。
田口などは顔が真っ赤だ。
それを見て神崎は笑う。
「やだなあ。銀太は純朴過ぎて」
「な、からかわないでくださいよ」
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