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第16章ー10 レセプション
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夜はレセプション。
明日の本番を前に、市長も参加してのイベントだ。
市内のホテルを貸し切り。
梅沢市の文化活動に携わる人が、ほぼ顔をそろえると言った大掛かり企画だ。
振興係からしたら、明日の本番よりも一番の山場になる。
「市長が到着です」
谷口の言葉に、渡辺は走る。
他の来賓の接待をしていた澤井を呼びに。
「そうか」
澤井は「失礼します」と会釈をしてから、入り口に向かう。
「市長。ご側路、ありがとうございます」
澤井の挨拶に、恰幅のいい小柄な男は手を上げる。
「澤井くん、さすがだね。期待していた以上だ」
「ありがとうございます」
「ここまで人が集まれば、明日は成功も同然だ」
市長付き秘書課のスタッフを押しのけ、澤井は市長の隣に位置する。
「そんな君が、来週から副市長の席に座ってくれるなんて、嬉しいね」
「ありがとうございます」
市長の控室に向かい、歩いていく途中。
受け付け周辺で指示を出している保住に出くわす。
彼は軽く会釈をして、やり過ごすつもりのようだが。
澤井が声をかける。
「市長。この事業の中心として活躍してくれている保住です」
自分の名前を呼ばれたので、保住は顔を上げる。
面倒なことになったと、少し顔をしかめる。
今は忙しい時間なのだ。
来賓の相手は、澤井と決まっている。
余計な手間を取らせないでくれと、澤井を見るが、彼は黙っておけと言わんばかりだ。
「君が保住くんの息子か」
彼は、にかっと笑顔を見せる。
「君のお父さんには、随分世話になった。彼が秘書課の課長をしてくれたおかげで、職員のこともよく教えてもらったしね。こうして、市長続けられているのも、君のお父さんのおかげだな」
「保住尚貴です。どうぞよろしくお願いいたします」
市長は、保住をじっくりと眺める。
「そっくりだね」
そう澤井に呟く。
「ええ。似ておりますね」
「ふむ」
市長は、軽くうなずくと保住の目の前にやって来る。
「私は費用対効果を優先する。効果さえ出してくれれば好きなことをしてもらって構わないのだよ」
「はい」
「ただし、失敗は許されないけどね」
「承知しております」
保住の返答に満足したのか。
澤井を見上げて笑う。
「君に似ていい部下だ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、またね」
彼はひらひらと軽く手を振ると、廊下の奥に消える。
頭を下げて、それを見送る。
近くにいた田口が近寄ってきた。
「市長ですね」
「気味の悪い男だ。好かん」
「同感です」
二人で話をしていると、今度は少し高音の柔らかい声が響く。
「保住さん。この度は、おめでとうございます」
振り返ると、そこには県の菜花が立っていた。
「菜花さん」
「こんなレセプションにまでお邪魔しちゃって。……すみませんね」
「来ないかと思いましたけど」
「他のだったら来ませんけど。保住さんの頼みだし。それに、結構、面白い企画だし。いい先生たちともコネクション作れそうですもんね」
「一石三鳥くらいの話でしょう?」
「それを見越して誘ってくれたんでしょう?」
うふふと笑う菜花は、愛らしい笑みを浮かべる。
「似たカテゴリー」
田口は、そう呟く。
「菜花さん、うちの新人の田口です」
「田口です。どうぞよろしくお願いいたします」
菜花は、にこにこっと田口を見上げる。
「県担当の菜花と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
柔らかい物腰だが、ちょっと変わっている人っぽいと感じてしまうのは、偏見なのだろうか。
「せっかくですから、出演者をご紹介しましょうか」
「それはありがたい。いいんですか?」
「勿論ですよ」
「やっぱり保住さん、わかってるな~」
「田口、ちょっとここ見ておいて」
「しかし……」
傍にいたいのに。
この忙しさじゃ、それはかなわないか。
諦めるしかない。
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