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01 帰ってきた男2
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眠そうに目を擦り、ため息を吐く。
真っ黒で外にはねている髪。
疲れている証拠なのだろう。
ソファの上で書類を眺めながら寛いでいた星野は、呆れて笑った。
「でけえ欠伸だな。おい? もう少しなんだから、気合入れろ」
蒼とは対照的な星野。
無精ひげを生やしていて、シャツだってきちんと着たためしがない男だ。
一言で言うと「だらしのない男」いうところだろうか?
格好からして、少しふざけた感じの彼だが。
実はものすごい音楽通である。
県内で活動している主たる音楽家で、彼と知り合いではない人はいないくらい交友関係は広い。
人との付き合いは上手なのだろうか?
最初はそんな疑問が、もんもんと蒼の思考を支配していたが、ニ年も付き合ってみるとそれは頷けることであった。
彼はとても面倒見が良い男だった。
人間的に落ち着いたいいやつ。
そんなところだ。
蒼もここで続けられているのは、彼の助けがあってのことだと思う。
ドジでおっちょこちょいの蒼を助けてくれる、よき先輩。
何度も助けてもらった。
本当に感謝している。
だけど、そのことは彼には言わない。
感謝の気持ち。
ありがとうとか。
もちろん、助けてもらった時には素直に謝礼は述べている。
だけど、あまり褒めてしまうと付け上がる性分なのだ。
冗談なのか?
本気なのか?
星野は代償を求めてくる。
あんまりなことを言って付け上がらせてはいけないのだ。
このニ年で学んだことだ。
蒼はパソコンを操作する手を休めて星野を見た。
「だって、疲れましたよ……」
「若いのになあ」
「若くたって限界がありますよ。三日連続の遅番ですよ? 酷いな……。課長を恨みます」
ぶ~っと膨れてみせると、星野はますます愉快そうに笑った。
「あのねえ。お前が一番若くって、下っ端な訳。文句は言うな。文句を言うなんて十年早いんだよ」
「ちえ~」
ぶうぶう文句を言っていると、廊下が騒がしくなる。
時計に視線を移すと、21時になろうとしているところだった。
どうやら、練習を終えた団体が出てきたようだった。
「終わったみたいだな」
「はい」
「今晩は、第一練習室が市民オケ。第四練習室が個人。第五練習室がロマン・コーロだな」
星野は日誌を見てから立ち上がった。
「おれは戸締りしてくるから。お前は日誌をまとめておいて」
「は、はい」
帰るとなると機敏なんだから。
蒼は慌てて席を立つ。
自分も早く帰りたいし。
星野から日誌を受け取って、今日のところを開く。
星野は鍵と懐中電灯を持ち事務所を出ようとした。
と、その時。
星野を遮るかのような長身の男が事務所に入ってこようとしていて、鉢合わせになってしまった。
「うわ!」
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