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02 雨夜7
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すると、濡れた大理石の床でバランスを崩す。
「あわわわわ~~」
転ぶ!
そう思って両手をバタバタさせてバランスを保とうとした瞬間。
手に持っていた自転車の鍵が吹っ飛んでいった。
「!」
どうしよう!
もう消灯してしまっているので、辺りは真っ暗闇である。
素直に中に戻って外灯を着ければいいものの、そんな心の余裕はなかった。
わたわたと鍵が消えていったであろう方向に駆け寄る。
「み、見えない……」
職員専用の玄関口の周囲は、林に面しており、鍵はその草むらに入っていったと思われた。
こうなったら雨のことなんて気にしていられない。
蒼は、必死に鍵を探す。
もうこうなったらどうでもいい。
とりあえず、自転車の鍵を探さなければ……。
屈みこみ、這うようにして手探りで探す。
しかし、視界の悪さと雨のせいで一向に見付かる気配はなかった。
どのくらいたったのだろうか?
蒼にしてみれば1時間にも2時間にも感じたが、実際には数分の話だろう。
それでも雨は無情にも彼の上に降り注ぎ続ける。
びしょびしょになって目が霞んだ。
「最低だ……今日は」
探している間「歩いて帰ってもよかったのに」と思いつつも、やめられな自分は不器用なのだろうか。
意地っ張りな性格が、こんなときに足を引っ張る。
なんだか情けなくなってきた。
視界がぼんやりしてよく見えない。
たまらずに目を擦ってみた。
すると。
「!」
蒼の濡れた手に付着して外れてしまったコンタクト。
もう、なにがなんだかわからない。
コンタクトまでどこかに行ってしまうだなんて。
救いようがない。
もうお手上げだった。
蒼は極端な遠視。
近くが見えないのだから困ってしまう。
「……ふえ……っ」
なんだか情けなくて涙が出てきた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう……。
雨なのか、涙なのかもよく分からない。
ぐじぐじ泣いていると、不意に視界が明るくなる。
突然のことに呆然としてぽかんとしていると、眩しい光が蒼を照らしていた。
光の主は怪訝そうに声を上げた。
「そこにいるのは誰だ」
「……?」
自分の手で光を遮り立ち上がる。
瞬きをしていると、ふっと光が外れる。
そこでやっと自分が怪しまれているってことに気が付いた。
「あ、あの!別に泥棒とかではなくって……っ!」
一人でわたわたと言い訳をしていると男は呆れた顔をしていた。
「あなたは……」
相手には、自分が分かっているようだった。
蒼も目をこらして相手を見定める。
この男は。
楕円形の眼鏡。
グレーの傘を片手に懐中電灯を持っている。
蒼がツイていないと思う要因になった男だった。
「関口……?」
彼は、呆れた調子で蒼を見つめていた。
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