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02 雨夜10
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「星音堂も人手不足なんですってね」
「へ?」
「あなたのような方でも人材の一人には変わらないでしょうからね。これで体調でも崩されたら、星野さんが大変です」
「なっ!」
やっぱり関口は関口だ。
意地悪。
「送っていきましょう。もうこんな時間だ」
一人で怒っている蒼を無視して、時計を見る。
もう22時を回っていた。
これではもう帰宅は無理だろうな……。
全く。
この男に逢わなければ、自分は今頃、高速の上だろうに。
ため息を吐いて笑うしかない。
本当に世話の焼ける男。
年上のクセに。
関口はそう思う。
「でも。こんなにお世話になったのに、またお世話になるなんて」
「人の好意は素直に受け取ったほうが良い時もあるのですよ。嫌だったら言い出しません。おれは正直ですから」
屁理屈っぽい内容の言葉だったけど、それが彼の優しさなのだろうか?
ふっとそんな気がして素直に受け取ることにする。
彼の車は星音堂の前の路上に停まっていた。
一つの傘で二人は、車に向かう。
黒い大きな車は本当に学生を終えたばっかりの男が乗るものなのだろうか?
なんだか育ちのいい、どこぞの息子なんじゃないかと思う。
そう考えると、少し納得できた。
きっと育ちが違うのだ。
そう自分勝手に解釈してしまうとほっとした。
彼に促されて助手席に収まる。
「シートが濡れちゃう」
「平気ですよ。そんな細かいことは気にしません」
静かなエンジンの音が聞こえ、車は走り出す。
市内のことは詳しいのだろう。
地名を言っただけで、彼は蒼の自宅の所在地を理解したらしく、黙って車を走らせていた。
蒼も疲労のおかげで話す気も起きない。
雨の音とラジオから流れる交通情報の女性の声が車内には響いていた。
『次に、雨の影響で通行止めが出ています。21時半頃、高速道路でスリップ玉突き事故がありました。これにより、東京方面への車線が全面通行止めとなっています。繰り返します……』
「……本当に帰れないな」
関口の呟きに、半分眠りかけていた蒼は意識を引き戻す。
「なに?」
「いえ。東京に帰れないなと思いましてね」
「……あれ。こっちに戻って来たって……?」
首を傾げて関口の横顔を見詰める。
「星野さんにはそう言いましたけど、実のところは違うのです。ヴァイオリンの講師なんて考えていません。おれは東京を拠点とした演奏家をやっています。だけど、もっと一流になってからではないと、恥ずかしくて報告できませんからね」
そういうものなのだろうか?
そんなに見栄を張らなくてもいいような気もするけど。
しかし、彼にもいろいろ思うところはあるのだろう。
考えた末の嘘……と言ったところだろうか。
「いろいろあるんだね」
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