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06 愛しい人2
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「うん……」
目にいっぱいの涙をためたまま彼女は、関口を見上げる。
関口は、側に置いてあった愛器を構え、弓を静かに引いた。
しんと静まり返った室内に響く優しいメロディー。
曲が終わると彼女は、嬉しそうに手を叩いた。
「す、すごい!いい曲だね!先生」
ハンカチでごしごし目を擦る少女は
等身大の姿だ。
一人でヴァイオリンを習いに来たゆうちゃん。
大人びて生意気な子。
だけど、こうしていいものをいいと感じる素直な心があるのだ。
嬉しくなってしまうのと同時に、自分の子ども時代を思い出した。
自分も彼女と同じだった。
妙に大人びた生意気な子ども。
同年代の子どもとは上手くいかなくて、逆に馬鹿にしたような態度をとっていた。
反抗精神旺盛な子どもだった。
「ありがとう。先生の好きな曲なんだ」
「なんていう曲なの?」
彼女は瞳を輝かせる。
関口は苦笑して、彼女の脇に置いてある楽譜を示した。
「楽譜見てごらん」
「え?」
ヴァイオリンを側に置き、にこやかな表情で彼女を見る。
彼女は、びっくりして、今まで自分がリズム練習をしていた曲の楽譜を眺めた。
「え。この曲……?」
「簡単そうに見えて、とってもいい曲なんだ。だからおれは、誰かにヴァイオリンを教えるときにいつも最初にこの曲を教えるようにしているんだ」
関口と楽譜を交互に見て、彼女は俯く。
「ゆうちゃんの練習していた曲……」
何か思うところがあるのだろう。
彼女はじっと押し黙って、楽譜を見つめていた。
「この曲を作った人はどう思っていたんだろうって気にならない?」
笑顔で見下ろすと、小さく頷くゆうちゃん。
関口は、言葉を続ける。
「この曲を作ったボスさんはね、好きな人がいたんだよ。恥ずかしがり屋のボスさんは彼女にどう声をかけたらいいのかすごく迷ったんだ。そこで自分に出来ることは音楽しかないって思って、彼女に思いを伝えようと曲を書いたんだよ」
「……ボスさんは曲をプレゼントしてどうだったの?」
関口は、悲しい表情で首を横に振った。
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