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08 安寧のとき7
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「関口。お風呂に入りなよ」
ベッドの上で楽譜を読んでいたら眠ってしまったらしい。
柴田の家で、一日練習をしてきて疲れてしまったようだった。
これからのことも色々考えなくてはいけないし。
目を開けると、お風呂上がりの蒼がいた。
ほくほく顔の蒼。
心配そうに関口を見ていた。
「大丈夫?疲れたんじゃないの?今日はずっと先生の家で練習してから市民オケだったもんね」
「いや……」
眼鏡を外して伸びをする。
何時だろう?
21時過ぎに帰ってきたら、彼はもう帰っていた。
今日は、遅番じゃなかったようだ。
一緒に住んでいても蒼のスケジュールはよく分からない。
早ければ日勤だし、遅ければ遅番だし。
その程度の話だ。
蒼にとってもそう。
関口が帰宅しないのなら、どこかで練習をしている証拠だ。
お互い、そんなに干渉しない生活。
心地いいもの。
帰ってきてから、蒼の用意してくれたご飯を食べて、彼がお風呂に行ったとこまでは覚えている。
うつらうつらしていたのは、彼がお風呂に入ってからの話だからそんなに時は経っていないようだ。
もぞもぞ起きだして楽譜を閉じる。
蒼は、ものめずらしそうにそれを見た。
「これをやるの?」
「ああ。メンデルスゾーンだ」
「メンデル……?メンデルの法則?」
「なにを的外れな……」
そう言いかけて笑ってしまう。
そっか。
今まで家族も含めて、自分の周りには音楽をやっている人しかいなかったのだ。
メンデルスゾーンを知らない人に逢ったのは久しぶりで、なんだか新鮮だった。
「有名な人なの?」
笑われてしまったので、蒼は不思議そうにしている。
「一応ね。でも音楽やってない人では知らない人もいるよ」
「……?」
「曲は聴けば分かるかも。有名だから」
「そうなの?CDある?」
「車だ。明日聴かせるよ」
「いいの?」
蒼は、嬉しそうに笑った。
こんな会話の一つ一つが新鮮なのだ。
音楽の話なんて、嫌なほどしている。
「高校の卒業試験で弾いた曲なんだ。もう一回やってみようかなって思って」
「高校の卒業試験?そんなのがあるの?」
「高校は音楽学校だったから」
「そうなの?」
関口の話に興味を持ったのだろう。
彼は、好奇心旺盛なほうだ。
なんでも知りたがる。
だから本好きなのかも知れないけど。
本格的にベッドの脇に座って関口を見る。
「この辺にはないぞ。あっても女子高だ」
「そうなの?そんなのがあるんだ~。高校なのに音楽の勉強ばっかりするの?」
「そう。高校入試も実技があるんだ。音楽ばっかりって訳じゃないけど、最低限の基礎教科プラス音楽の時間が毎日のようにあるんだ」
「へ~!」
蒼は感心している。
そんな素直な反応が、おもしろくて仕方がなかった。
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