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14 役不足3
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「お邪魔しました……」
蒼は関口を車に乗せて挨拶をする。
「泊まっていけばいいのに……」
「大丈夫です。あの。柴田先生にも宜しくお伝えください」
「はいはい。酔っ払うと、なんにも覚えてないとは思うけど……。蒼ちゃん。これからもよろしくね。あんないい加減ですけど。音楽には、夢中な人ですから……」
「いえ。こちらこそ。関口を宜しくお願いします」
蒼は深々と頭を下げた。
「また来てね」
「失礼します」
関口の車は運転したことなかったけど、多分、大丈夫だろうと思う。
ゆっくり帰ろう。
蒼もとても疲れてしまった。
よく考えたら昨日、退院したばかりだ。
身体も辛い。
火曜日まであと二日。
なんとか調整して早く仕事に復帰しないと。
星野が言っていた。
ちゃんと治さないとみんなに迷惑が掛かってしまう。
明日からはのんびりしよう。
そのほうがいいと自分でも思う。
助手席の関口は気持ちよさそうに寝ていた。
『ちゃんと言うから……』
今朝の彼の言葉。
本心なのか決め兼ねる。
なんの取り得もない自分のことを、関口が本気で好きになるはずがない。
なんの取り得もない。
平凡な自分……。
今日の関口を見て思い知った。
彼は本当にすごいのだと。
音楽も素敵だったけど、ステージに出てきたときの存在感は格別なものだった。
他の演奏者なんかよりも輝いて見えた。
『誰も。お前なんか相手にしないんだ』
シャワー中もぐるぐる二つの声が駆け巡る。
関口と。
もう一人……。
ため息を吐き、蒼は部屋へと向かう。
関口も疲れたのだろう。
車からアパートに連れ帰るは、至難の業だったが、ちっとも起きる気配もない。
かろうじて声かけに反応してよたよたと歩いてくれたからよかったものの、朦朧としているせいで、支えるのが大変だった。
今日は、彼にとって最高の日であったことに間違いない。
このままゆっくり寝かせてあげないと。
そんなことを考えて部屋に入る。
すると、寝ていたと思った彼はベッドの上でごろごろしていた。
「起きていたの?」
「蒼。ごめん。おれ。酔ってる」
「いいよ。お疲れさま。もう寝なよ」
ベッドの隅に座って、ぼんやりしている関口を見下ろす。
「蒼も疲れたね。付き合わせてしまった。退院したばかりだったのに……」
「気にしないで。それよりさ。ちゃんと言ってなかったよね」
もぞもぞしている関口を見つめて蒼は微笑む。
「優勝おめでとう」
関口は照れくさそうに笑っていた。
かわいらしいところもあるものだ。
これが本当の関口なのではないか?
自分よりも年下で威張っているけど。
関口はまだ子どもだ。
「ありがとう」
「よかったね。本当に」
「うん……」
二人は黙る。
静寂が流れた。
なんだか沈黙は窮屈だ。
蒼は、ベッドにあがって枕を持った。
「あっと……。おれ寝る。疲れたみたい」
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