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15 過去10
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「なに驚いてんだよ?おれがなんて言うと思ってたの?」
「だって」
こんな暗い話だ。
大変だねとか、不幸だったんだねとか。
そういう類の言葉が来ると思っていたのに。
彼は、あっけらかんとして、蒼を見下ろしていた。
「蒼の母さんは、心の病にかかっただけだろう?そして、そういうことになった原因は、熊谷家の特殊性のせいだ。母さんも蒼も誰も悪くない」
彼は大きく頷く。
「蒼は悪くない」
蒼は戸惑った。
そう言い切られても……。
彼の自信は、どこから来るものだろうか?
それに。
「関口、分かってるの?おれの母さんは自傷他害事件まで起こして精神科に入ったんだよ?その息子のおれと一緒にいたら不幸になるよ?」
「どうして?」
「ど、どうしてって……」
だって。
もしかしたら、自分にもその狂気の血が流れていて、なにをしでかすか分からないと言うこと。
それに、そういう悪い噂の付きまとう自分と一緒にいたら、関口まで不幸せになってしまうと言うこと。
危惧されることはたくさんあるはずだ。
「蒼。そもそも精神の障がいってなんだ?おれだってコンクール前とか鬱病状態だし。大したことないさ。おれの場合は、蒼にずいぶん助けてもらったよ?蒼がいなかったら、おれもめちゃくちゃなことしでかしていたかも」
「関口」
「きっと蒼の母さんは、助けてくれる人が回りにいなかっただけだよ。蒼は子どもで助けられないしね。誰かいたら病気になんないで済んだはずだ」
「関口」
「いいね。誰も悪くないんだ。偶然が重なっただけ。自分を責めてはいけないし。母さんのことも許してあげて」
誰も悪くない?
悪くないんだ。
そう。
偶然が重なっただけ。
ちょっとだけ歯車が狂っただけなのだ。
うまくかみ合っていたら、幸せな生活は継続していたはずだ。
ふっと気持ちが軽くなる。
どうしてだろう?
関口に話しただけで、気分がいいのだ。
関口が、蒼からそうしてもらったように、彼もまた蒼の重荷を軽くしてくれたらしい。
「おれは蒼の母さんは、どんなに美人なのかが気になるの。ね?」
にっこりする関口。
蒼は、ほっとしたら涙が出てきてしまった。
そして泣きながら笑う。
「ありがとう……」
「蒼は、本当に泣き虫だね」
「うん……。泣き虫だね。おれ」
ぽろぽろ泣く彼の頭を撫でる。
「ずっと逢っていないんだろ?思い切ってお見舞いに行ってみようよ。おれも付き合うし。土曜日休みだったろう?行ってみない?」
「でも」
「いいよ」
母親に逢うのは、何年ぶりだろう。
いや。
十数年ぶりか?
こんな形でお見舞いに行くことになるなんて、思わなかった。
関口に感謝だ。
彼がいなかったら、実現しなかったこと。
会いにいってみたいなんて、思ったこともない。
何故だろう?
今日は。
今は、彼女に逢ってみたいと強く思う。
「ありがとう……」
「いいんだよ」
もう一度、蒼を抱き締めて関口は笑う。
蒼が幸せになってくれれば、十分だった。
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