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16 待たなくていい1
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関口は、案外忙しい。
蒼からしたら、仕事をしていないに等しいのだが。
彼は、彼なりに予定があるのだ。
「今日から、二泊三日で東京に行って来る」
「明星オケの仕事?」
蒼はエプロンを外して、目を瞬かせる。
「うん」
「そうかあ。もうそんな時期なんだね。月末の定期演奏会だね」
「来月は、演奏会がなくてラッキーだけどね。9月は、海外ツアーもあるし。それが終わると、全国ツアーが始まるんだ。まったく。自分の練習している暇ないよ」
しかし、それでお給料をもらっているのだから!仕方ないだろう。
蒼は、苦笑する。
関口にしたら、仕事も趣味も好きなことも。
全てが一緒だから混同してしまいがちだ。
しかし、プロとしてしっかり仕事をこなさなければならない。
今日は珍しく、一緒に起きての朝食だった。
午前中の内に、東京に出かけると言うこともあるが、関口からしたらら実質3日間も蒼に逢えなくなってしまうのだ。
朝くらい一緒に過ごしたいという思いがあるのだろう。
「明星オケって、忙しいんだね。でも、売れっ子オケだもん。それくらいは当然か」
そういう問題ではない。
関口にとっての悩みは、蒼と一緒にいる時間が減ってしまうってこと。
仕事も大切だけど、蒼も大切なんだから。
ぶうぶう文句を言いながらお茶を飲んでいると、蒼は、かばんを持ちあげた。
7月も終わりだ。
じりじりと朝からセミの鳴き声がしてくらくらするようなお天気だ。
「じゃあ。おれ行って来るね」
「もう行くの?」
「暑い日が続くからね。一番に行って、クーラーつけないと」
へへと笑う蒼は、可愛い。
思わず抱き締めたくなってしまうが我慢だ。
「関口。いい演奏を」
「あ。蒼」
「なあに?」
出かけようとしている蒼を呼び止める。
「3日も逢えないなんて、寂しいなと思って」
思わず本音が出る。
蒼は苦笑した。
「なに言ってんだよ。すぐじゃん」
「でも」
本当は、蒼も寂しいと思う。
関口がいないなんて。
「おれね。日曜日飲み会だからね。何時ごろ帰ってくるの?」
「え!飲み会なの?」
がっかりだ。
せっかく日曜日の夕方には、帰ってくるというのに……。
帰ってきても蒼はいないと言うことか。
夜遅くなるに決まっている。
「ごめんね。なるべく早く帰ってくるから」
「じゃ、じゃあさあ。おれ、迎えに行くよ」
「いいの?」
「うん。終わったら電話、寄越したら?」
しょぼんと拗ねている関口は、可愛い。
本当だったら断るところを頷く。
「宜しくね」
「了解!……、蒼。薬ちゃんと飲むんだよ」
「はいはい。いってきます」
いつまでも関口の視線が痛かったが、蒼は振り切るように部屋を出た。
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