アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
16 待たなくていい4
-
東京は、ジリジリ暑かった
蒼と過ごしている梅沢は、盆地の暑さだ。
じめっとした湿気が不快なところなのだ。
だけど東京は違う。
熱風が吹き荒れ、関口の肌に突き刺さるようだった。
外気と室内の気温の差は、激しい。
クーラーの利いている部屋で寛いでいた。
ここは、明星オケのホームグラウンドホール。
今日は、午後からここで、定期演奏会が開かれるのだ。
控え室。
本番まで時間があるので、団員はそれぞれ好きなように時間をつぶしている。
外出している者もあれば、控え室でのんびり寛いでいる者もある。
控え室にはパイプ椅子が無造作に置かれ、長机にお弁当が置かれていた。
関口は、ネクタイを外し、椅子に身体を預ける。
午前中の練習で疲れてしまった。
ショスタコービッチの第4番。
初めての曲だったから、まだしっくりこない気がする。
譜面を見つめぼんやりしていると、長身の男がコーヒーを二つ持ってやってきた。
「ほれ」
彼は、嬉しそうにコーヒーを一つ、関口に渡し目の前に座る。
男は、燕尾服に身を固め、きりっとした顔立ちをしていた。
真っ黒な髪を後ろに撫でつけ、ハンサムタイプだ。
女には困らない奴。
昔からそうだ。
彼との出会いは高校まで遡る。
東京の音楽学校で知り合いになった。
それ以降、なんだかんだと切磋琢磨してきた関係だ。
彼は、喫煙組み。
煙草を吸ってきて大満足なのだろう。
コーヒーを美味しそうに飲んでいる。
ここのところ、ホール内も禁煙になっているから肩身が狭いと笑っていた。
「お前さあ。最近、落ち着いてきたんじゃん?」
「はあ?」
彼からもらったコーヒーに口をつけて吹き出しそうになる。
「なに言ってんだよ?」
彼の真意は読み取れない。
関口は、友人であるその男、宮内を見つめた。
「お前さあ。どうして田舎に引っ込んじゃった訳?」
田舎って……。
確かに東京から比べたらどこも田舎ではある。
「おれの故郷なんだけど!」
むっとして宮内を見る。
彼は、しらっとした顔をしてお弁当を一口食べる。
「まずっ」
ここのお弁当のまずさは、今に始まったことではない。
関口は最初から手をつける気はなかった。
「いや、そんなことより、さっさと吐けよ」
「なにが?」
「女だろう?これから飛び出さなきゃならないって言うのに。田舎に引っ込んでどうするんだよ。活動範囲が狭まる一方じゃん。コンクールで優勝したって言ったって、小さいのではなんにもなんないじゃん」
「確かになあ……」
彼の話はもっともだった。
音楽活動をするには、都市部のほうがなにかとやりやすいのは確かだ。
だけど、あの場所には、蒼がいるから。
それに小さなコンクールだって、今回のそれは有意義なものになった。
川越との対面は、不快なものだったが、少しは自信になった。
あれ以降、国際級の大きなコンクールにも挑戦してみようか?と思えるようになった。
「いいの。星音堂で優勝することが、おれの夢だったんだから」
「お前は甘ちゃんだなあ」
「お前に言われたくないよ。そういうお前こそ、最近は、ちっともコンクールから遠のいているじゃないか」
「あーあー!いい!それよりも女の話だ!」
宮内は、手を横に振って話しを逸らした。
「女って……?」
関口は、きょとんとしている。
なんの話だ?
「女なんだろう?お前を田舎に繋ぎとめてるのは。絶対そうだ!」
彼は自信満々だ。
そっか。
そういう風に疑っていたのか。
笑ってしまう。
「なにがおかしいんだよ~?おれの睨みは正確だ」
確かに。
女と言う点は間違っているが、半分は当たっている。
関口は苦笑して宮内を見る。
「それが違うんだよなあ……」
「なんだよ?」
「女っつーか」
煮え切らない関口。
「女……じゃないのか……?」
不思議そうにしてた宮内は、瞳を細める。
「ぎくっ!」
関口の反応は宮内の疑いが、図星だと言わんばかりだ。
がっくりとうなだれる。
「お前、あんだけ言っただろうが……。男遊びはやめておけって」
「遊びじゃないんだって!」
関口は言ってしまってからはっとする。
乗せられた!
慌てて口を手で塞ぐが後の祭りだ。
宮内は愉快そうに笑う。
「吐いたな~。お前。本気かよ……?」
関口は項垂れた。
言うつもりはなかった。
別に。
わざわざ彼に打ち明ける必要もないと、思っていたから。
しかし、長い付き合いのせいか、彼には隠していてもばれてしまう。
「おれは、本気だよ」
関口は、覚悟を決めて開き直る。
「珍しいねえ。お前がそんなに本気になるなんて」
「……」
「こりゃ面白いな」
「人のことで楽しむな」
手を叩いてはしゃいでいる宮内。
呆れている関口なんか、そっちのけで彼は話しを進める。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
99 / 869