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16 待たなくていい5
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「なんか写真とかないの?」
写真?
蒼と写真なんて撮る機会もないし、彼の写真をもらう機会もない。
だけど、この前こっそり隠し撮りしたのがあったっけ。
蒼は、本を読み始めると切りが無い。
声を掛けても分からないくらいだから都合がいい。
だから携帯で激写してみたのだ。
こうして逢えない時に眺めようと思っていたから。
携帯に思いを馳せていると、宮内は「ある」と確信したのだろう。
「見せろ!」と乱暴に関口のかばんを、横取りする。
「こら!乱暴するな」
「どうせあるんだろう?携帯か?それとも写真か?」
にやにやしている彼は、勝手に関口の携帯を取り出した。
「宮内!!」
「反応が大きくなったな。携帯でビンゴか?」
長年の付き合いとは、嫌なものである。
なにも言っていないのにお見通しだ。
「人権侵害、プライバシーの侵害だ……」
ぶうぶう文句を言っている関口なんかお構いなしで携帯をチェックする宮内。
「これか?これか?」
鋭い。
ぽかぽか陽気の中、読書をしている蒼。
蒼を見ただけで、ぽや~っとなってしまう関口。
宮内は爆笑だ。
「お前の好みだな!ちまっとしてて、ぽわ~んとしてて」
「どういう意味?」
「そのままじゃん。可愛い」
「お前が言うな!なんだかむかつく……」
関口は、ぱっと携帯を取り返して画面を見つめる。
「蒼は……」
「蒼って言うんだ。名前も可愛いじゃん」
「ぐっ」
隣から覗き込んでくる宮内をガードするように、携帯を閉じてしまう。
「ちぇ」
「蒼は星音堂の職員で。三つ年上なんだ」
「年上か」
「そうそう。年上。頼りになるときもあるけど、頼りにならないときのほうが多くて」
「つい手伝ってあげたくなっちゃうタイプか?」
「そう。そうなんだよね」
「で、どんくらい?付き合ってるんだろう?」
「どんくらいって……」
関口は俯く。
蒼からの答えは得られていない。
自分の全てを関口に知ってもらいたいからと話してくれたときは嬉しかった。
もしかしたら、自分のことを特別に思ってくれているってことだから。
しかし、あの話題について改めて切り出すことも出来ないし。
関口は、ただ黙って待つしかなかったのだ。
このままではどうにもならないって分かっているけど、どうしていいのか分からないのが、正直なところだった。
「付き合ってはいないんだ」
「へ?」
「まだあいつの気持ちが分からない」
一緒に住んでいても、蒼は遠くにいる。
もっと距離が縮まるといいんだけどな……。
関口は、大きくため息を吐いた。
すると、女性スタッフが顔を出す。
「そろそろ、準備お願いします!」
出番だ。
室内はざわついて、団員たちは楽器を手に立ち上がる。
「行くか。今日の指揮者テンポ揺れすぎるんだよなあ……」
「確かに。弾き難い」
蒼。
早く逢いたい。
この演奏が終わったら蒼に逢える。
そう思うと心が弾んだ。
「今度、連れてきたら?その蒼って子……」
「気が向いたらね」
ネクタイを締めなおし、部屋を出ようとしたとき、ふとコンサートマスターの貝塚と一緒になった。
「テンポの揺れは、なんとかしようじゃないか。期待してるよ。若者たち……」
「貝塚さん……」
「若いっていいねえ」
初老の男は愛嬌がある。
技術も一流、表現も一流。
同じヴァイオリニストとして尊敬している。
いつかは自分も彼と同じ場所にいけるのだろうか?
「頑張ります!」
関口の言葉に、宮内は苦笑した。
「お前。意味が違うんだっつーの」
「は?」
「まあまあ。出番だぜ!」
不可解な顔をしている関口の肩を叩き、宮内は颯爽とステージへ続く通路を歩き出した。
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