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「啓介」
陽介と啓介は良く似ている。
しかし、二人は栄一郎にはあまり似ていない。
亡くなった母親に似たのだろう。
髪型こそ違えど、きりっとした一重の瞳から大きく結ばれた唇までそっくりだった。
「おれも大学休まされたんだけど。父さんが蒼来るって言うし。なんだか大切な話だって言うから」
「……そう」
蒼は俯く。
啓介は苦手だ。
昔から。
やんちゃな啓介。
蒼は元々、ちっちゃくて貧弱だったから、兄としてみてもらったことはない。
むしろ、自分の下っ端ぐらいの話で、いつも悪戯されたり、意地悪をされていた。
それを助けてくれるのが陽介。
陽介と蒼が仲がいいので、つまらなかったのかもしれない。
彼は蒼と気軽に話すような関係ではなかった。
『いつまで帰ってこない気だよ?』
ふと先日、星音堂にやってきた啓介の口から発せられた言葉を思い出す。
『お気楽だよな?実の母親の面倒をおれたちに押し付けておいて。自分は逃げてばっかりかよ?』
そわそわした。
居てもたってもいられない。
この家に蒼が安らげる場所はないのかも知れない。
落ち着きのない蒼を見て、啓介は軽く笑った。
「みんな、お前に合わせてんだぞ。分かってんのか?蒼」
「ごめん……」
きまちゃんを握る手に力が入る。
「話ってなんだろうな。お前のことかな?それとも母さんのことかな?」
視線を外し、わざとらしく呟く彼。
ドキドキした。
「……え。おれの、こと……?」
胸の辺りが疼く。
なんなんだろう?
自分のこと?
視線は泳ぎ、顔色が悪い。
動揺していることは明らかだ。
「とんだお嬢様だよなぁ。昔から」
俯いて心を落ち着けようとしても、啓介の言葉は蒼の心を揺さぶり続ける。
「なんだか変だよな?お前たち親子が来てからさ。どうしてこうなんだろう?かき回すだけかき回して、後は知らん振り。自分だけ安定した生活を送ろうなんて甘いんじゃないの?ちゃんと責任持てよな。どうなってんだよ、この家」
彼は更に続ける。
「父さんは、空さんのことで大きな病院から手引いちゃうし。陽介だってお前がいなくなってから抜け殻状態だぞ?」
自分たちだって被害者だ。
熊谷家が加害者なんだから!
それなのに。
自分たちも加害者なのか?
空や蒼のせいでこの家はおかしいのか?
混乱した。
この場所から逃れたいと思った。
いつも逃げてきた。
それは自分が安定するために必要なことだったから。
きまちゃんを抱えたままふらっと立ちあがる。
「おい、どこ行くんだよ?」
啓介に腕を取られ、引き戻される。
ぼんやりしていたせいか、蒼は反動でベッドに倒れこんだ。
「わわっ!」
はっとした。
啓介もそんなに力を入れたわけではないから、蒼の反応に一瞬動きが止まった。
しかし、気を取り直して起き上がろうとしている彼の肩を掴まえ、そのままベッドに押し付ける。
「啓介……?」
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