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23 すれ違い21
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星音堂の昼食時間は12時15分~13時15分。
その時間を見計らって関口は『ごめん』とだけメールをしてみる。
だけど、返事が返ってくることはなかった。
「は~……」
今晩は市民オケの練習だ。
安岐と顔を合わせなければならない。
なんだか、ますます練習に行きづらくなってしまった。
昨日からため息ばかりだ。
なんども携帯を見るけど返信の気配はない。
そんなことをしている内に、いつの間にかうとうとしてしまっていた。
結局、昨晩は熟睡感が得られていなかったから寝不足だったらしい。
昨日のことに思いを馳せる。
今朝、急いで帰宅をしたものの、蒼の姿はなかった。
テーブルの上に吸入が出ているということは発作があったのだろう。
こんなときに留守にしてしまうなんて。
身体は眠っているのに、頭だけ活発に動く。
中途半端に寝てしまったためか、目が覚めると頭が重くて朦朧としていた。
何時だ?
時計を見る。
18時を過ぎたところだった。
「やばっ!」
蒼は日勤だ。
オケの練習前、早めに星音堂に行って、蒼に逢おうと思っていたのに。
携帯を見ても返事は入っていない。
もう完全に無視か。
かなり怒っているのかもしれない。
がっくりうなだれてからヴァイオリンを持ち上げる。
「……ん!」
ふと目についたもの。
それは蒼の携帯だった。
通りでなんのリアクションもないわけである。
蒼の携帯はテレビの横に置きっぱなしだった。
しかも、充電がなくなって切れている。
「あいつ」
忘れていったのだろう。
蒼は神経質そうで、大雑把だ。
さすがO型。
「これでは、届くわけ無いじゃん」
関口はヴァイオリンを持ち、部屋を出る。
今からだったら蒼に会えるかもしれない。
急ごう。
関口は車に乗り込み星音堂までの道を祈るような気持ちで車を走らせた。
駐車場に車を止めて急いで事務室へと向かった。
「こんばんはっ!」
関口はよほど焦っていたのだろう。
その焦りは周囲の人にも伝わっている。
彼が一生懸命施設内に入るとすれ違う人たちは彼を避けて歩いていた。
事務室に入ると室内はがらんとしていた。
「よお」
ソファの影から星野が手を挙げた。
「星野さん!蒼は?」
星野の咳払いにはっとして顔を上げると、奥から吉田がやってきた。
「あれ?関口。どうしたの?」
「あ。いえ。こんばんは……」
「吉田~。ちょっと関口と話しあんだ。少し出てもいいか~?」
「どうぞ。でもちゃんと戻ってきてくださいよ!」
「はいはい」
星野は、関口の肩に手を掛けて事務所をでる。
そして、ホワイエの前のベンチに座った。
「……で。蒼がなんだって?」
いつもの星野ではない。
関口は居心地が悪そうに彼の横に座っていた。
なんだか星野の様子がおかしいのだ。
ひしひしと感じる。
怒っているみたいだった。
「あの。帰っちゃいましたよね」
「当たり前だろうが。定時で帰らせたよ。あんなひどい顔じゃねえ」
星野はタバコに火をつける。
「ひどい?」
「お前さあ。蒼を幸せにするんじゃなかったのかよ?」
どっきりした。
なに?
「見損なったぞ。お前」
「星野さん……」
相変わらず淡々としている星野の横顔を、関口は見詰める。
静かな口調の中に本気の色が見えて、まごついてしまった。
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