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31 始動3
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「こりゃ、しばらくは騒がれるな」
苦笑して、今までの様子を見ていた尾形。
「はあ……とんだ災難でした」
「まあまあ、いいんじゃない?そんな、世界的に注目されているようなマエストロとお近づきになれるなんて、滅多にないことじゃん」
「じゃあ、代わってください!」
日誌を眺めて怒る蒼。
「それは御免だけど」
尾形は大きな声で笑う。
まったく、人事なんだから。
蒼は大きくため息を吐いて日誌に向かった。
関口が所属している市民オーケストラは比較的若い。
平均年齢は20代だ。
だからこそ、関口がコンマスになれたのもあるが……。
練習が終わって、再び柴田に呼び出された関口。
「飯、食うぞ」
「でも……」
「蒼には言っておいたから」
「え?」
よく見ると、柴田の後ろには団員が数名いた。
「あの」
「まあまあ、関口君、行こうよ!」
柴田の後ろで笑っているのは、チェロのパートリーダーの横田裕美。
「おいおい、蒼って、事務室の?」
横田の隣ではビオラの佐伯太郎が笑っていた。
「佐伯……」
「熊谷と仲良いよなあ。お前」
「と、友達だし」
「ふうん」
「先生、なにご馳走してくれるんですか?」
もう一人いた。
関口はびっくりして視線を向ける。
そこには、セカンドヴァイオリンのリーダー、雪田菊乃がいた。
「そうだなあ、そこの中華料理屋でいいか」
「やった~~!」
4人は柴田に連れられて側の中華料理店に入る。
「先生、話って?」
メニューを注文してから、さっそく佐伯が口を開く。
「話っていうのはだな。お前らで組んで星音堂の文化祭に出てもらいたいと思ったんだ」
「ええ!?」
4人は一斉に声を上げる。
「星音堂の文化祭はらみんなも知っていると思うけど、職員の人たちが、いろいろな音楽とコラボしているんだ」
「去年は……確か、どっかの吹奏楽じゃなかったでした?」
「そうそう」
横田の言葉に柴田は同意する。
「で、今年はこの市民オケに提携の依頼が来ているって訳だ」
「コラボって……」
「メニューはまだ決まってないが、ミュージカル仕立てにしたいみたいだ」
関口はため息が出る。
どうしたらこんな発想になってしまうのだろうか……。
水野谷あたりの考えか?
星野はめんどくさがりだし。
「その伴奏をおれらに?」
「そういうことだ」
4人は黙る。
と、注文していた料理が運ばれてきた。
「先生、あたし、室内楽はやったことがありません」
雪田は正直に手を上げる。
「そうだな」
「おれも、自信ない」
佐伯も同様だ。
「そうか?横田はどうだ?」
「あたしは……面白そうだから、やってもいいです」
「横田?」
佐伯は、びっくりして彼女を見る。
「だって、勉強になるし、楽しそう」
「関口は?」
柴田は、横田をにこにこして見てから、関口に視線を寄越す。
さっき言っていたことはこれか。
「もちろん!やりますよ!」
笑顔は引きつる。
「お前、無理してない?先生に弱みでも握られてんだろう」
佐伯は呆れて関口を見る。
「んなことはない!やりたいんだって」
「ふうん。じゃ、おれもやるかな」
「え!」
自分ひとりだけ「できない」なんて言えなくなってしまった雪田。
彼女は俯いてから頷く。
「分かりました。わたしもやってみます」
4人の同意が得られたところで柴田は豪快に笑った。
「よし!決まりだ!おれは、お前たちだからこそ頼むってことを忘れないでくれよ」
大丈夫なのだろうか……。
まず市民オケ自体に馴染んでいない関口ができるのだろうか……。
室内楽なんて、大学以来だ。
心配で仕方がない。
「暗い顔してんな!」
そんな関口の不安に気づいたのか。
佐伯は、バシバシ関口の背中を叩く。
「痛いんだけど……」
「悪りぃ」
「一応、市民オケではできる奴ばっかだし。なんとかなるって!」
「そうだな」
「まあ、今日は食べよう」
柴田の声に4人は食事を始めた。
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