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41 冬のジェラシー4
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「わかったわ」
「安岐」
「ごめんなさい。あたし一人で大騒ぎして」
「そんなことはない。おれも前回のときにきちんとしなかったし。すまなかった。安岐一人で悩んでいたんだろう?辛い思いをさせた」
「ううん」
安岐は首を振ってから蒼のところにやってくる。
「ごめんなさい」
彼女は手を差し出す。
蒼は戸惑ったが、素直に安岐の手を掴む。
「あの。おれのほうこそ。知らなくて」
「いいの。あなたには、関係のないことだったのにね。巻き込んでしまってごめんなさい。嫌な思いをさせてしまったわね」
「そんな」
「でも吹っ切れたわ。関口くんに必要なのはあなただって。あたしも自分のことを必要としてくれる人を探すことにするわ」
「安岐さん」
「いいわね。本当に羨ましいわ。こんなにお互いがお互いを必要として付き合っている人ってそんなにいないんじゃないかしら?成り行きで付き合っている人も多いものね」
「そっかな」
「あたしも、あなたたちよりもベストな恋人を見つけるわ!」
安岐は関口を見る。
もう未練はないだろう。
関口もほっとした。
気にしていなかったといったら、うそになる。
演奏会などがあったからいろいろ忙しくて安岐どころじゃなかったけど。
彼女が自分のことを気にしていることはよく分かっていた。
だからいずれは決着をつけないといけないとは思っていた。
こんな形で蒼を巻き込んでしまったけど。
ともかく決着がついたのでほっとした。
「ごめんなさい。寒い中。あたし帰る」
「送ってくか?」
関口は声をかける。
「いい。もう関口くんの優しさには甘えないことにする」
「安岐」
「大丈夫だって」
彼女は元気に手を振って走っていってしまった。
関口は蒼を見る。
「ごめんな。巻き込んで」
「ううん。大丈夫だけど。ごめんね。関口」
「なに?」
「だって。おれ、彼女に声を掛けられていたの、黙っていて」
「いいって」
車に乗り込んでふと蒼は声を上げる。
「でもなんで関口来たの?待っててって言ったのに」
「いや。なんとなく。蒼の調子も変だったし。なんか胸騒ぎがしてさ」
「……そっか」
蒼はほっとため息を吐く。
「ありがとう。関口。それから、この前はごめんね」
「なんだよ?謝ってばっかじゃん。おれのほうがごめんって言うべきなのだろうな」
「ううん。関口は悪くないよ。それに、今言ったごめんはこの前のこと」
「この前の?」
関口は瞬きをする。
この前って言われても、たくさんあるんですけど……。
「前に安岐さんとのことで揉めたときだって」
「ああ。ってか、なんで蒼が謝るんだ?」
関口にはちっとも分からない。
蒼は苦笑をして彼を見つめた。
「おれね。今回、安岐さんに声かけられてはっきり断ることができなくて。なんだか前回の関口の気持ち分かった」
「え?」
関口は笑う。
「だろう?なかなか断れないんだってさ」
「関口は優しいからね」
「蒼もね」
お互い誉めあっていたのではどうしようもない。
二人は苦笑する。
「クリスマスどうする?」
「どうするって」
「休みないの?」
「冬休みはもらえるかなあ?でも結構、有給つかっちゃったから」
「蒼はサボり大王だもんな」
「んなことないもん!」
「この前だってショルと逢うのに休んだじゃんか」
「関口!」
まだ根に持っているのか……この男は。
「うそうそ。冗談だって」
「知らない!」
ぷいっと視線をそむける。
「もし出来たら」
「え?」
視線を戻すと、関口はまっすぐ前を向いて運転している。
「もし出来たら一緒に温泉にでも行くか?」
「温泉!?」
これはご老体の蒼には魅力的だ。
さっきまでのすねた態度もなんのその。
蒼は瞳を輝かせて関口を見る。
「お、温泉?行く!絶対に行く!」
嬉しそうな蒼。
単純なのだから。
彼の喜ぶものベスト3は温泉と本と酒。
これさえ与えておけば言うことなし。
3大欲求の食う・寝る・読書と組み合わせて提供しておけば常時機嫌がいい。
「どこに行くの?」
「近場でもいいの?」
「もちろん!冬だもん。そんなに遠くに行かなくていい!温泉があれば!」
単純蒼猫。
好きなものがもらえるとなると豹変するあたりが気ままなのだろうなあと関口は思う。
「ま、いっか」
「なに?」
「ううん。なんでもない。予約するから日程をつめよう」
「うん!」
彼はうきうきしている。
さっきまで安岐の件でもんもんしてことなんてすっかりそっちのけだ。
そんな蒼にはいつも救われると思った。
関口は嬉しくて軽快にアクセルを踏んだ。
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