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47. ATTO PRIMO1
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コンクール当日。
前評判を左右する出場者たちのプロフィールが公開された。
もちろん、関口も入り口のところで号外みたいになっている新聞を受け取る。
今回の出場者は過去最多らしい。
それぞれエントリーした順番で番号がふられている。
関口は早くからエントリーをしていたので最初のほう。
8番目だった。
彼の後ろには十数名の出場者たちの名前が連なっている。
何かしらの国際コンクールで入賞をしているものばかりだ。
ちらほら関口と一緒で経歴のないものも見受けられるが……。
出場者たちの下には広報担当者が依頼している専門家の推薦度が星印でついている。
国際コンクールでの実績を持っているものは満点が星5つ中、4.5星などになっている。
さて。
関口は?
ドキドキしてみると、彼のところの星は真っ白だった。
「ええ!なんで。真っ白?まったく推薦度なし?」
ショックを受けていると桜は軽快に笑う。
「ショック受けなくて大丈夫だよ。あんたは実績も経歴も怪しいから判断できなかっただけだって。見てみな。他の経歴ない子たちもそうなっている」
「あ、本当だ」
評価されているのはコンクールでの入賞経験のあるものばかりだ。
「だからいいんだって」
桜は笑う。
「なにがいいんですか?」
「前評判がよすぎると期待されるから。へました時との落差が激しいんだ。あんたみたいなダークホースはうまくできたら評価は倍増だ。まあ、最初に1次予選に限りの話だけどね」
「そうなんだ」
「そうなのよ」
二人とミハエルは控え室に入る。
「じゃあ、あたしは演奏聞いているから。いつも通りにやりな。客は家に来ている酔っ払いだと思えば気が楽だよ」
「それは無理です!」
相当無理な話だ。
そんな気軽なものではないだろう。
無茶なことばっかり話している桜。
だけど、にっこり笑って関口の背中を押した。
「いいね。いつも通りでいいって。肩の力入れたり、かっこつけようとするなよ!」
そんな二人のやりとりをミハエルはニコニコして見守っていた。
「勝手なんだから……。本番前なんだから、もう少し静かに励ましてくれればいいのに……」
ぶつぶつ文句を言っている関口の腕を掴んでミハエルは笑う。
『じゃあ、やろう!圭』
『え!はい!』
『ミハエルも。あたしとやる時みたいにやってちょうだいね』
『うん』
「健闘を祈る」と、ご機嫌で客席に去っていく彼女。
なんだかんだ言って、行ってしまうと寂しく感じるものである。
やっぱり彼女は頼れる師匠だった。
控え室では音出しを始めている出演者もいる。
関口も楽器ケースから自分の愛器を取り出した。
「一緒にやってやろう。頑張ろうな」
こっそり呟いてからミハエルを見る。
『宜しく』
『いいよ。今日は圭に合わせるから。思う存分やってね』
『すみません』
『本番で違うことやりだすのは桜の十八番だったから。任せて』
桜のやりそうなことだ。
口は苦笑して弦の調整を始めた。
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