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47.ATTO PRIMO2
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審査委員の控え室。
国際コンクールと言うこともあって、審査委員も豪華な顔ぶれだった。
経歴はさまざま。
ヴァイオリンの演奏者や作曲家、指揮者に評論家……。
しかし、どの審査委員も音楽をやっているものならば一度はその名前を耳にしたことのある有名どころばかりだったのだ。
前評判を決める号外を見ながら審査委員たちも感想を述べ合う。
これは毎年恒例のことだ。
『この23番の子。この子は先日ドイツで行われたコンクールで最優秀賞をもらっているわ』
『あたしも審査委員で聞いたけど、なかなか筋のいい子よ。優勝候補になると思うわ』
『こっちの51番の子もなかなかよ。情熱的な演奏をするの』
『この子は知らなかったわ』
『まあ聞いてみて。あなた好みかも』
中年のおばちゃん審査委員たちの会話にため息を吐いてから号外を丸める男。
『キミは誰が本命だい?』
隣にいた初老の男に話しかけられて顔を上げる。
『おれは審査委員ではありませんから』
『それはそうだけど。最後に一緒に共演するなら誰がいいのかなって思ってさ』
眼鏡の男は愛想がいい。
にっこり笑顔で顔を覗き込んでくる。
『誰でも構いません!あなた方が選ぶのでしょうから、トップクラスの出場者が選ばれるのでしょう。文句は言いません』
『ずいぶん高く買われたものねえ』
おほほほと笑う女性審査委員。
『ショル。キミの期待に沿うように素晴らしい演奏家を発掘してみせるよ』
『そうですか』
ショルティはため息を吐いて廊下に出た。
外に出るとマネージャーのアラン・ブリスが立っていた。
太陽みたいな存在のショルとは対照的な男だ。
彼は慌ててショルの後を歩く。
『どうです?今日の演奏はお聞きになられますか?』
彼を見てますますため息が出た。
『ショル?』
『アラン、今年の審査委員は大丈夫か?』
『どうされました?』
『前評判や前回のコンクールの話ばかりだ。先入観は公平な判断を狂わせる』
むんむんしているショルを見てアランは笑う。
『ショルは今年から参加ですから分からないかもしれませんが、これもまた。ゼスプリの特色なのですよ』
『なぜ?』
『先入観なんかも打ち砕いて這い上がってくる実力者を発掘するためです。前評判通りであればそれまでですが』
にっこり笑顔で厳しいことを言う。
若いのに、経験豊富な彼はショルにとっては助かるマネージャーであった。
いつも明るいが、この世界の厳しさもよく知っている男でもある。
『ショルのお気に入りの子の前評価は0でしたね』
『あいつはもこもこ日本国内でしか活動してなかったからな。全く論外だろう。誰もあいつの演奏を聞いたことがない。仕方のないことだ』
むっと口を閉ざし号外に載っている関口の写真を見る。
『最後まで残れよ。じゃないと。本当におれが蒼をもらうことになるんだから』
ショルティは側にあったゴミ箱に号外を押し込み、廊下を歩き出した。
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