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53.心に決める8
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関口のところに行くとなると忙しくなる。
いつまでもだらだら昔話に花を咲かせているおやじたちを残し、蒼はさっさと自室に戻った。
部屋に入り、一人になると緊張した。
明日。
関口に逢いに行くんだ。
「……」
関口に迷惑がかかるのではないか?と言う危惧は拭い去れないけど。
だけど、今回は自分の気持ちを優先してしまったのだ。
やっぱり行きませんなんて言えるわけもないし。
行くしかないのだ。
「えっと。準備しないと……」
アパートから引越しをしてきたときのかばんに荷物をつめる。
今回は簡単なお引越しみたいなものだったから、旅行かばんに入れてきたのだ。
助かった。
そのまま持っていけばなんとかなりそうだ。
そうそう、きまちゃんも入れていかないと。
不安だし。
ギュウギュウ荷物をつめていると、ドアがノックされた。
「はい?」
「いいか」
声は陽介。
蒼がこの家に来てから、一応遠慮しているのか、この部屋に入ってくると言うことはなかったからビックリした。
「うん」
蒼の返答に彼はそっと顔を出す。
「大丈夫か?手伝う?」
「ううん。大丈夫。来たときの荷物をそのまま持ってくからさ」
「そっか」
床に座り込んで用意をしている蒼をベッドに座って見ている陽介。
「さっきはああ言ったけど、事故のこともあるし心配だ」
「なに言ってんだよ。大丈夫だって」
でも……、と陽介は言葉を濁す。
本当に過保護なんだから。
「陽介。啓介に彼女出来たの知ってた?」
「あ?まじで?」
「うん。今日も遊びに行ってると思う」
「そうなんだ。まあ、昔から家には寄り付かない奴だったからな。彼女が出来たなんて知らなかった」
「だろうね」
蒼は苦笑する。
「ねえ。おれから言うのもなんだけどさ。おれのことなんてどうでもいいから。ちゃんと啓介のことを見てあげて」
「へ?」
なにを言い出すとばかりに陽介は目を開く。
「啓介、あれで拗ねてるんだと思う」
「そっか?」
「そうなの。結構、末っ子で寂しがりやなんだから」
そうかもしれない。
陽介も納得する。
「……確かにな」
「うん」
「三人で遊んでいた頃が懐かしいな」
「そうだね。だけど、最初に拗ねて、離れて行ったのは啓介だったね」
「そうだったな」
懐かしい思い出だ。
三人で遊んでいた頃。
啓介にとったらちょっと蒼は疎ましい存在だったに違いない。
だって、今までは自分が一番下で一番愛されていたんだから。
それなのに、ちょっぴり身体の弱い蒼が来て、栄一郎も蒼の面倒をよくみてくれていたから。
啓介にとったら蒼は邪魔だったんじゃないかな?と思う。
小さい頃にそういう思いをすると、寂しいまま大人になって、本当は寂しいのに、甘えるってことが出来ない子になるんじゃないか?
だから、啓介は素直じゃないことが多いもの。
人のことを分析できるような眼力はないけど、蒼はそう感じていた。
「あいつには嫌われてるとばっかり思ってた」
「そうなの?」
「そうなの!」
陽介は笑う。
「まあ、今でもそうだろうけど」
「そんなことないんだって」
「そっか?」
「そうなの!」
蒼は大きく頷く。
「啓介は陽介のこと大好きだよ。おれ、わかる」
「蒼の勘は当てにならないからな」
「ひどい言い草」
二人は苦笑してため息を吐く。
「……ごめんね。陽介。おれ、陽介にも何も出来なくて。今まで一生懸命、おれのこと支えてくれていたのに」
「蒼。あのねえ」
彼は真面目な顔をして蒼を見る。
「おれはお前に対して、確かに見返りを求めてきたのかも知れない。だけど、もういいんだって。いい。あの男が蒼にふさわしいとは思わないけど、蒼があれを選ぶならそれは自由だと思う。今はそう思えるんだ」
「……今は……」
陽介の言葉に一瞬、引っかかりを感じる。
先日、加賀とのこともあったからかも知れない。
だけど、そのことについてあれこれ蒸し返そうとは思わない。
もう解決したことなんだから。
「そっか。ありがとう!」
にっこり笑顔作ってみせる。
すると、伸びてきた腕に引っ張られて引き寄せられた。
「陽介?」
ぎゅ~っと抱きしめられるとドキドキした。
「陽介?」
「おれ、ここにいるからさ。嫌なことがあったら、すぐに戻ってくるんだよ?蒼」
「……陽介」
「あの男にひどいことされたら、おれが仕返しをしてやるんだから。いいね?」
「……」
関口はそんなことしないよ。
そう言いたかったけど、その先は言わない。
陽介の気持ち。
ありがたいことだ。
自分のことを支えてくれる。
今はその気持ちに感謝するしかない。
今は。
だけど、いつまでも自分にばっかりって訳にはいかないのだ。
啓介みたいに自由に好きな人を他に見つけてくれたらいいんだけど。
でも、それは蒼の勝手な思いであって、他からみたら都合のいい話でもあるのだ。
だから今は言わない。
「ありがとうね」
「うん」
陽介はさっさと部屋を出て行った。
その後姿を見送って、蒼はため息を吐く。
この家には色々な思いがつまり過ぎている。
だけど、こうして後押しをしてくれたりする存在。
なんでも感謝の気持ちで受け入れないと。
「わがままなんだよ。本当に」
自分が嫌になる。
蒼はきまちゃんを見つめてため息を吐いた。
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