アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
54.ATTO QUARTO7
-
『関口は大会前で不安定なんです!どうぞお引取りください!』
一瞬静寂になり、その後またざわめきが起こる。
『なんだ、日本人が。独り占めする気か?』
『そうだ、そうだ。おれたちにも取材をさせろ』
数々の文句を背に受けながら、高塚と桜は関口を抱えて控え室に入った。
ファイナルにもなると、控え室は一人一つだ。
だから、ここは関口専用の控え室。
ソファに横になって息を吐く。
「かっこ悪い」
は~っと天井を見つめると、にょんっと桜が顔を出した。
「仕方ないさ。あたしだって気分悪くなるかと思ったよ。あの数」
「そんな。桜さんはもっと時の人だったじゃないですか」
「そうでもないさ。時の人なんて一瞬だ。もう明日には忘れられているもんだ」
うっすら笑っている彼女。
なんだか寂しそうに見えた。
本当はこういう華やかな世界に未練があるんじゃないだろうか?
ふとそう思った。
しかし。
困った。
どんな風に報道されてるんだろう?
嫌だなと思う。
「本番前なのにすみません。なんだか余計なことしたみたいですね」
しょんぼりしている高塚。
「いえ。いいんですって。すみません。なんだか助けてもらっちゃって」
「いいえ。おれは何も」
なんだかズケズケ入ってくるマスコミの人とはちょっと違う感じがして、関口は笑った。
もしかしたら、彼も無理矢理押し付けられてここに来た口なのでは??
親近感だ。
「いいんです。おれ、頑張ります。日本でどう報じられてるかは知らないけど、今日で終わりですからね」
うんうんと頷いてから桜を見る。
彼女は時計を気にしているようだった。
「桜さん?」
「え?ううん。もう少しだな。一番目の人、演奏が始まる頃か」
「そうですね」
ファイナル進出は4人。
関口とピゼッティと。
イギリスの女性とロシアの男性と。
トップバッターはイギリスの女性だ。
次が関口、そしてピゼッティ。
ショルティはもうステージに立っているんだろう。
今日は、なんの打ち合わせもしてないけど。
まあ、なんとかなるか。
合わせられればよしとしよう。
ため息を吐いて、ヴァイオリンを取り出す。
自宅できっちり調整はしてきたけど、最終調整をしなければならない。
弦をいじったりして調整をする。
は~っと見ている高塚。
桜は苦笑して彼を急かした。
「いいの?取材、取材」
「は!そうだった」
「写真の1枚や2枚はいいよね?」
桜の言葉に頷く。
もうどうでもいい。
ここまで来たんだ。
後はステージに向けて集中したい。
嬉しそうにシャッターを押している高塚なんか目に入らないくらい、意識を集中させる。
あの入りのところ。
静かにって言ったけど、どうしよう?
ショルティの演奏次第だなと思う。
彼が静かにくれば自分もそうせざるを得ないだろうけど。
大きく来てくれたら……。
いやありえないか。
ショルティが関口に合わせるなんて、到底考えられないことだった。
無理だろうな。
静かに入るしかないか。
ため息を吐いて考えを巡らせていると、控え室の扉が豪快に開いた。
「は!?」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
393 / 869