アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
70.長い夜13
-
夢を見ていた。
圭が楽しそうにヴァイオリンを弾いている。
桜の店?
違う。
どこかおかしい。
そこは桜の店のように薄暗いところではなかった。
日の光がたくさん差し込んでいて、鳥が鳴いていた。
自分はカウンターの中にいる。
圭の周りにはたくさんの人たちがいて、楽しそうに手拍子をしていた。
意味不明なシチュエーションだけど、一瞬で意図を理解する。
きっと、ここは桜も店じゃなくて蒼の店なのだ。
自分がお店を持つなんてありえないし、なんだか笑ってしまうことだけど。
こうして圭と一緒になにかをしている自分が嬉しくもあり、誇らしくもあった。
満ち足りた感覚にほっとした。
そうそう。
自分はこうして、どんな形でもいいのだが、圭と一緒にいられたらいいのだ。
ただそれだけ。
他のことはなにもいらない。
この思いを圭に伝えてみようかな?
きちんと伝えて。
その上で彼がなにを選ぶのか。
待ってみてもいいのかも知れない。
そう思った。
気分がいい。
久しぶりにいい気分だった。
「う~ん……!?」
伸びをして、不意に安定感を失う。
目を開いた瞬間、自分は一瞬、宙に浮き、そして硬いものに落下した。
あまりの衝撃に声も出ない。
ただ瞬きをして天井を見つめる。
ここ。
どこ?
真っ白い天井。
「家じゃ、ない?」
状況が分からないと動けないのは動物の本能なのか?
ふとけだもを思い出す。
けだももそうだ。
辺りの様子がおかしいとじっと伺っていて、安全であると確認してから動き出す。
それと一緒かも知れない。
何度も瞬きをして思考を働かせようとした瞬間。
三浦の顔が見えた。
「あ~あ。蒼ちゃん、寝相が悪いっす」
「三浦?」
「ボケてるんですか?おれはおれです」
床に手をついてから上体を起こす。
「えっと」
視界の位置が変わると状況が把握できる。
自分はソファの横にいた。
きっとここから落ちたに違いない。
そして、ソファの上には三浦が眠そうに横になっている。
「!?」
「何です?」
「お、おれ?なに?三浦と一緒に寝ちゃったの?」
あくびをしていた彼は満面の笑みを浮かべた。
「酷いですよ~。蒼ちゃん、ワイシャツ掴んだまま寝ちゃうから。おれ、仕事をしようにもどうしようもなくて。とりあえず、ここで一緒に寝たんです。あ!一緒に寝ただけで、なにもないですからね!勘違いされてもらっちゃ困りますよ」
「だ、誰が勘違いなんかするか!」
蒼は顔を赤くする。
「なんで三浦となんか……」
「あ~。そんなこと言っちゃって。いいんですか?あんなにおれのワイシャツ掴んで離さなかった癖に」
「言うなよ!誰にも言うなよ!!」
「ぴゅ~♪」
「ぴゅ~じゃないよ~!!」
人生最大の汚点だ。
しかも、なに一緒に寝ちゃっているのだ。
「仕事は?書類は?」
「あっちっす!」
まだ残っているんじゃない!
蒼は慌ててデスクのほうに向かう。
まだ重要な書類がまとめ切れていない。
今日はお休みだからいいものの、早く終わらせて帰りたい。
「もう!星音堂にお泊りしちゃうなんて思ってもみなかったよ!」
蒼は常備してあったタオルと歯ブラシセットを持つ。
「顔洗ってくる!そしたらさっさと終わらせよう」
ばたばたと出て行く蒼。
三浦は苦笑する。
「もう。蒼ちゃんってばムードもへったくれもないんだから」
こうして長い夜は終わりを告げる。
少しは前に進めるかな?
蒼は鏡の前で大きくため息を吐いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
533 / 869