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72.指環と契約と3
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ロンドン、フィレンツェでのコンサートは大好評だった。
どちらも地元の若手演奏家の凱旋演奏会だったから、それも頷けるが。
10日かけて一緒だったショルやピゼッティと別れて日本に到着すると、ふと蒼のことを思い出した。
ツアーの間、彼のことを忘れていたわけではない。
圭もまた、忙しさに託けて蒼とのことから逃げ出していたのだ。
しかし、日本に来てしまうと向き合うしかないと思う。
お互いがベストな状態で恋人を続けられるように。
蒼は分かってくれるだろうか?
自分の考えを。
いや、その前に肝心の蒼を探さないと。
どうしているのだろうか?
10日も日本を離れていたせいで、蒼と一緒にいた記憶が遠く昔のことのように感じられた。
お日様みたいに笑っていて。
だけど、いろいろ辛いことも多くて、いつも我慢している。
少しおっちょこちょいなんだけど、妙にしっかりしているところがあったり。
気難しくて、めんどくさいときもある。
いつも自分のことを心配して、世話を焼いてくれる。
優しい男だ。
圭にとったら、今まで生きてきてこれ以上にない人だから。
「顔も見たくないって嫌われていたら仕方ないんだけど」
それでも諦められるのかな?
無理だろうな。
自分は結構、物事に執着するタイプだ。
蒼に嫌われたとしても納得しないかも知れない。
「いやいや」
あんまり思いつめてはいけないだろう。
お互い、いい結果にならない。
「ストーカーになりそうだな。おれ」
ぶつぶつ独り言を言う圭は異様だ。
高塚はタクシーに乗り込み、不可思議に彼を見る。
「圭くん?大丈夫?」
「あ、悪い」
圭も慌てて彼の隣に乗る。
このまま東京駅に向かって、新幹線に乗る予定だから。
「大丈夫?疲れているみたいだけど。おれも一緒に行く?」
「いい。お前も疲れただろう。今日から1週間はなにも仕事入ってないし。ゆっくり休むといいよ」
「それはいいんだけど。でも、蒼ちゃん探しとか……」
「いいんだ。もう完全にプライベートの話だからね。それに、おれも1週間はもう仕事から離れたいんだ。だから、分かってくれるだろう?」
圭の言い分はよく分かる。
高塚が側にいたのでは、仕事関係の話になるはずだし。
そういうわずらわしさから解放されたいのだろう。
「分かった。連絡は1週間後にするから」
「そうしてくれると助かる。必要だったらおれのほうから連絡するからさ」
「うん」
大きく息を吐いて、青空を眺める。
今年は猛暑だ。
暑い。
地元も暑いのだろう。
そろそろ桃が出来る時期だし。
帰ったら食べたいな。
そんなことを思った。
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